脱毛症[抜毛癖]│特定非営利活動法人 標準医療情報センター

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【抜毛癖の頻度と症状】

 円形脱毛症よりは少ないですが、しばしばみられる脱毛症です。自ら頭髪や眉毛など抜いてしまう一種の癖で、 抜毛狂 ばつもうきょう ] (トリコチロマニア)とも言います。主に学童ですが、ときに成人まで抜毛行為を止められない人もあります(図10)。ふつう、一部の毛を集中して抜毛するので、部分的な脱毛巣になり、円形脱毛症の通常型と見誤れることもあります。しかし、脱毛巣は円くなく、不規則で奇妙な形で、脱毛の状態も一様ではありません(図10)。つまり、あちこちに切れ毛があり、切れている毛も健康な毛が単純に不規則に切られている状態で、円形脱毛症の「病的毛」とまったく違い、また、毛がない毛孔も不規則に分布しています(図11)。残っている毛や周囲の毛も、抜け易くはありません。
たいてい、利き手側の頭髪を抜きますが、生え際は抜かない傾向があります(図10)。まれには、頭全体を抜毛してしまう人もあります。ほかに、爪咬みや食毛症を伴うこともあります。また、毛を始終抜いているために、指の爪先に変形が見られることもあります。

抜毛癖

図10.抜毛癖
31歳、女性

抜毛部の拡大写真

図11.抜毛部の拡大写真
不規則に切れた毛があちこちにみられる。


【抜毛癖の原因】

 どうして毛を抜く癖を始めてしまうかが問題です。多くは学童で、幼児ではほとんどありません。基本的には癖ですので、大きな理由がないことも多いのですが、抜毛するとかなりの痛みを感じるものです。それにもかかわらず、毛を抜く行為をしてしまうのは、児なりの精神的ストレスを感じ、抜毛という行為でストレスから逃れようとするためとみられます。ストレスの原因は、学校などでの対人関係や家庭環境、とくに母親との関係が多いと言われます。児は大人しく内向的なことが多く、ストレスを我慢して、抜毛を始めてしまいます。ときに、成人になっても抜毛行為を止められない人もあり、この場合は何か精神的疾患があるためと考えられます。

【抜毛癖の治療】

 脱毛自体の治療はまったく不要です。成長期毛を抜いても、毛母より浅いところで切れて抜けてきます。つまり、毛母や幹細胞(総論参照)は残っていますので、抜毛行為を中止すれば毛は再生します。主に学童ですので、家人(多くは母親)が付き添って来院しますが、抜いていることを児が自ら話すことはまったくありません。家人が脱毛を見つけて、驚いて皮膚科に連れてきます。
診察では、児とのコミュニケーションを良好にして、優しく問うと、たいていは行為を認めてくれます。ほとんどはそれだけで行為を中止してくれます。家人には、児が自室など1人でいるところに毛が落ちていないか、しばしば脱毛部を触っていないか、さらには家庭環境や学校の様子を尋ねて、対応を検討します。
大切なことは、抜毛行為について児を とが ] めたり、行為を見て叱ったりせず、優しく注意することです。それでも、なかなか行為が止められない、広範囲に抜毛している、あるいは成人の場合は、精神科にコンサルトします。しかしながら、まずは抜毛癖であるかどうかの正しい診断が重要です。しばしば円形脱毛症と誤診されて、無意味な治療を受けていることがあります。皮膚科専門医に相談しましょう。

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