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【男性型脱毛症の頻度と症状】

 男性型脱毛症は、主に男性で、前頭~頭頂の髪が薄くなるもので、早ければ20歳代で始まり、俗に「若はげ」と言われます(図6)。高齢の場合は老人性脱毛症図7)と言い、男性型脱毛症と一連のものとされます。
日本人男性における頻度は、20、30、40、50、60、70歳代に区分すると、それぞれ、6、12、32、44、51、61%で、全体では平均32%と言われます。薄くなり方は、前頭の生え際からM字形に薄くなる「M型」と頭頂が円く薄くなる「カッパ型」があり、同時に薄くなることもあります。進行すると、前頭~頭頂の全体に及びます。側頭~後頭の髪は薄くなりません。女性でも遺伝的素質のある場合、男性ほどひどくはなりませんが、頭頂が薄くなることがあります。

男性型脱毛症

図6. 男性型脱毛症
35歳、男性

老人性脱毛症

図7.老人性脱毛症
78歳、男性


【男性型脱毛症のメカニズム】

1)軟毛化
 髪が薄くなる現象の本態は、毛の軟毛化です(総論参照)。硬毛を作っていた毛根が、ある時の毛周期から、短く細い毛(軟毛)しか作らなくなり、毛の本数は保たれても、髪の量が減少します。皮膚組織の中では、毛周期で新しい毛根が再生するとき、元のような大きく深い成長期毛根に発達する前に、早めに退行期になってしまうためです(図8)。これを「毛根のミニチュア化」現象と言い、思春期以後に増える男性ホルモン(アンドロゲン)の作用によります。その後は、小さな毛根のまま毛周期を営なみますので、そういう毛根が増えれば、軟毛ないし産毛ばかりの頭皮になります。
男性型脱毛症における毛根のミニチュア化

図8 男性型脱毛症における毛根のミニチュア化
毛周期の成長期の始まりで、毛根があまり発達しないうちに、退行してしまいます。

2)男性ホルモン作用
 男性型脱毛症は男性ホルモン(アンドロゲン)の作用によりますので、男性ホルモン性脱毛症アンドロゲン性脱毛症)とも呼ばれます。
男性ホルモンの毛根に対する作用は少し複雑です。毛乳頭細胞が毛周期での毛根の変化に重要な役目をしますが(総論参照)、この毛乳頭細胞が男性ホルモンの作用する標的細胞です。しかし、この作用の結果は、体の部位によって異なります。つまり、男性型脱毛症になる男性の前頭~頭頂の毛根では、男性ホルモンが作用すると毛乳頭細胞は毛母細胞の増殖を抑える因子を出し、毛の成長を止めてしまいますが、男性の髭や胸毛などの毛根では、逆に毛母細胞の増殖を高める因子を出して、毛の成長を促進します。側頭~後頭の毛根はあまり作用を受けません。
もう少し詳しく言いますと、毛乳頭細胞は、主な男性ホルモンであるテストステロンをいっそう作用の強力な5α-ジヒドロテストステロン(5α-DHT)に変換する5α-リダクターゼという酵素を持っています。この酵素にはI型とII型があり、側頭~後頭の毛乳頭細胞はI型だけですが、前頭~頭頂および髭や胸毛の毛乳頭細胞はI型とII型を持っています。つまり、男性ホルモンの影響が強く起こるのは、主にII型5α-リダクターゼが働いているためとも言えます。
女性で男性ほどひどい状態には進まない理由は、女性の毛乳頭細胞にはアンドロゲンの一部をエストロゲン(女性ホルモン)に変えてしまう働きがあるためと考えられています。

【男性型脱毛症の治療】

 細い軟毛しか作れなくなったミニチュア毛根を大きなものにして、成長期の期間を長くすることができれば、男性型脱毛症の改善が図れるというのが、治療の原理です。

1)日本における治療の実態
 昔から、男性型脱毛症には様々な治療法が考案され、また、化粧品関連でいわゆる「育毛剤」が多種多数作られ、商業的にも大きな市場になっています。しかし、従来、単なる思い付き、誤解あるいは迷信のような事柄も多く、商品を売ることに専念し、科学的、医学的な証明のないものも極めて多いのが現状です。とくに、高額な料金を取って、まったく効果の無い治療を受けさせる商売は社会問題です。
男性型脱毛症は、自然の生理現象ではあるものの、とくに若い男性では悩むことも多く、悪質な商法にだまされたり、意味の無い民間療法に陥ることもあります。中には、脱毛になってもいない若者に「はげるかもしれない」と不安を起こさせ、治療を奨める商法もあります。
男性型脱毛症の治療を希望する場合、まずは本当に男性型脱毛症であるのかが問題ですが、それさえも無視され、いい加減な治療が横行しています。また、インターネットの発達で情報が氾濫し、正しいことは何か、かえって分かりにくい現実になっています。

一方、今日の皮膚科学にける毛組織の研究の進歩には目覚ましいものがあり、また、育毛剤を含めて育毛治療の評価方法も格段に進歩し、とても科学的になっています。そのような科学的根拠に基づいて日本皮膚科学会で作成された「男性型脱毛症診療ガイドライン」が、2010年に公表されています。その中で、十分な効果が確認されている治療法は、ミノキシジル外用フィナステリド内服で、手術としては自家毛植毛術です。やるべきでない治療は人工毛植毛術で、医学的にとても危険です。以下に、各治療法について説明します。
2)外用療法
 ミノキシジルはもともと高血圧の治療薬ですが、内服していると毛深くなる副作用があり、それが育毛外用薬として男性型脱毛症に応用されました。これは医師が処方する薬ではなく市販されていますので、自由に購入できます。濃度が1%と5%のものがあります。液状で、1日1回、頭皮に外用します。この有効性はすでに世界中で認められ、ガイドラインでも、高い推奨度に設定されています。1%で女性用もあります。
研究面でも、多くの研究がなされ、ミノキシジルは毛乳頭細胞に働いて毛母細胞の増殖を高める因子( 増殖促進因子 ぞうしょくそくしんいんし ] )を多く放出させることが判っています。男性ホルモン作用には関係なく、働きます(図9)。ほかにも、いくつか推奨される外用薬はありますが、科学的・医学的根拠が乏しく、推奨度はそれほど高くはありません。
毛根における男性ホルモン作用の仕組みと主な育毛薬の働く原理

図9 毛根における男性ホルモン作用の仕組みと主な育毛剤の働く原理
AR: アンドロゲン受容体 DHT: ジヒドロテストステロン R: リダクターゼ  TS: テストステロン

3)内服療法
 内服で男性型脱毛症に有効なことが医学的に証明された薬がフィナステリドです。日本ではごく最近、認可されたものですが、内服薬ですので購入には医師の処方箋が必要です。また、唯一の内服治療薬です。フィナステリドは、II型5α-リダクターゼの作用を抑える薬( 阻害薬 そがいやく ] )で、毛乳頭細胞に働いてその酵素を抑えます。その結果、男性ホルモンの作用が弱まり、毛乳頭細胞の出す毛母細胞の増殖を抑える因子( 増殖抑制因子 ぞうしょくよくせいいんし ] )が減って、毛の成長が促進されます(図9)。1日1錠を内服して、効果がある場合、3か月ごろから少し髪が濃くなり始めますが、1年は継続しないと有効かどうかの判断はできません。ただ、すでに詳細な臨床試験で、硬毛の数が増加することは明らかになっています。長期的には、1年よりは3年の方が改善は良好です。
この薬は、男性ホルモン作用を抑えることから、最近、Ⅰ型とⅡ型の両方の5α-リダクターゼを抑制するデュタステリドの内服も行われるようになりました。これらの薬は、初めは男性の性機能を抑える副作用が心配されましたが、実際にはほとんどその副作用は出ていません。ただし、女性には投与してはいけない薬で、投与された女性が妊娠すると、男の胎児の生殖器の発達が抑制されてしまいます。高齢の女性では投与可能かもしれませんが、無効であることが証明されています。
男性の老人性脱毛症については、少しは効果があるようです。しかし、若い男性のような必要性があるか問題です。また、前立腺から血中に出されるPSA(前立腺特異抗原)を約50%低下させてしまう作用があり、高齢男性でしばしばある前立腺肥大症を血液検査で見落とす可能性があります。
4)手術療法
 自家毛植毛術では、髪が十分に保たれている後頭の硬毛を毛根ごと、前頭~頭頂に移植します。毛根は、移植しても、もともとの性質を保ちますので、十分な数の硬毛を移植すれば、一機に改善します。通常、後頭の頭皮を切りとり、その皮膚片から毛根を1本1本分離して1本1本植えますので、熟練した技術と長時間を要する手術になります。自費診療です。ただ、何年かして、再度薄くなっても、後頭部の毛の数にも限界があります。
やるべきでない手術は、人工毛の植毛です。これは人の毛に似せた人工物を頭皮に差し込むもので、大変危険な行為です。形成手術では、ほかの目的でいろいろな人工物が皮膚の中に入れられることはしばしばで、異物反応さえ起こさなければ、有用なことは多くあります。しかし、人工毛の最大の危険性は皮膚に開けた「穴」が人工毛のためにふさがれない、つまり傷つけられた皮膚が修復されない状態に放置してしまうことです。皮膚は外界から体を守る大切な役目をしています。実際に異物反応だけでなく、感染症を起こして化膿し、さらに人工毛は脱落し、瘢痕になるなど、重大な被害を受けることもしばしばです。
5)そのほかの注意事項
 マッサージ、超音波や光線などの物理的刺激を頭皮に与えても、毛根にはほとんど何の影響もありませんし、かえって傷害されるかもしれません。また、色の濃い海藻を食べると濃い髪になるなどは迷信で、食べ物やサプリメントでは男性型脱毛症への良い影響はまったく期待できません。また、頭皮の脂が毛の成長を妨げると言いますが、全く根拠がありません。男性型脱毛症が始まるころに、同じく男性ホルモンの作用で頭皮の皮脂も増加しますので、誤った考えです。ただし、皮脂が多いとほかの皮膚病の原因になり、シャンプーは大切です。
かつらを使用することは、外観の問題ですので、良いことです。かつらは非常に進歩し、単にかぶるものだけではなく、頭皮に貼り付けるもの、残っている硬毛に人工毛をくっ付けるものなど、外観的に優れたものがあります。ただし、皮膚に貼り付けても数日ではがれ、また、硬毛が寿命になれば一緒に脱落するものです。どうしても、手入れや処置が始終必要になります。
円形脱毛症男性型脱毛症は、まったく違う仕組みで起こり、毛の状態もまったく異なりますので、それぞれの治療法を他方にやってみても、また、別の脱毛症にやっても、まったく意味がありません。正しい診断と正しい治療法の選択が大切ですので、皮膚科専門医に相談しましょう。
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