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【脱毛症とは?】

 脱毛症は、皮膚科学の正式の病名ですが、それには毛髪が少なくなった様々な状態が含まれます。しかも、「脱毛」という言葉が大ざっぱに曖昧に使われています。つまり、外見上で毛髪が少なければ「脱毛している」と言っているわけです。厳密に言うと、①毛髪が抜け落ちて、毛髪の数が減少または無くなる状態(数の減少)、②数は変わらないが、毛髪が細く短くなり、量的に髪が薄い状態( 軟毛化 なんもうか )、③毛髪の質が悪く切れやすく、長くならない状態(毛髪異常)の3つに分けられます。それぞれ、表1のような脱毛症が挙げられます。ほかに、生まれつき、毛髪が生えないあるいは髪が少ない場合は、 無毛症 むもうしょう ないし 乏毛症 ぼうもうしょう と言います。

表1.脱毛症の分類
脱毛の状態 病 名
①数の減少・消失 円形脱毛症、抜毛癖、休止期脱毛、外傷性脱毛、瘢痕性脱毛、薬剤・化学物質による脱毛、放射線による脱毛、代謝病による脱毛、感染症による脱毛、膠原病による脱毛など
②軟毛化 男性型脱毛症、老人性脱毛症
③毛髪異常 いろいろな毛髪奇形

【健康な毛髪とは】

 脱毛症を理解するためには、まずは健康な毛髪についての知識が必要です。

1)毛の種類
 頭髪、男性の髭、腋毛、陰毛は太く長くなり 硬毛 こうもう ] 長毛ですが、眉毛、まつ毛、鼻毛は太く短く硬毛短毛です。腕、体や下肢の細くて2cm以下の毛を 軟毛 なんもう ] と言い、乳幼児の顔などでとても細く短い白色の毛を 生毛 せいもう ] ないし 産毛 うぶげ ] と言います。毛の数は、全身で500万本、頭髪は10万本あり、それぞれの部位の毛の性質は、遺伝的に決まっています。
2)毛の生え変わり( 毛周期 もうしゅうき ]
 個々の毛には寿命があり、ある程度伸びると成長を止め、抜ける状態になります。しかし、同じところに新しい毛根が再生して、再び新しい毛母で毛の細胞が作られ始めると、同じ毛孔から、古い毛を追い出すように毛が伸びてきます。その皮膚の中の変化は、図1のごとくです。毛を盛んに伸ばしている時期を 成長期 せいちょうき ] 、毛根が縮んで行く時期を 退行期 たいこうき ] 、伸びずに留まる時期を 休止期 きゅうしき ] と言います。続いて休止期の毛根の下端部から次の成長期の新しい毛根になる 毛芽 もうが ] が出現します。この成長期→退行期→休止期→成長期という繰り返しを毛周期と呼び、毛の生え変わりが絶えず起きています。
成人のふさふさした頭髪の成長期は数年で、つまり数年間伸びて寿命になります。成長期毛の割合は約85%で、休止期毛が10数%、退行期毛が数%の割合で、常時、100本程度が毎日自然に抜け落ちていますが、それに応じて再生し、ほぼ一定の数が保たれます。伸びる速度は、1日に約0.4mmです。ところが、男性型脱毛症や老人性脱毛症では、硬毛で覆われていた前頭~頭頂部の毛髪がある時から短く細い軟毛に置換わってしまい(軟毛化)、髪が薄い状態になります。
毛根のこれらの変化には、毛母が取り囲む中に集合している 毛乳頭細胞 もうにゅうとうさいぼう ] が重要な働きをしています。また、毛隆起という部分に、毛根になる細胞を供給する 幹細胞 かんさいぼう ] が存在しています。
図1.毛の生え変わり(毛周期)における毛根の変化

図1.毛の生え変わり(毛周期)における毛根の変化

3)毛の成長に影響する因子
 毛が長く太くなる、逆に短く細いなどは、もともと遺伝的に決まっていることで、人種による差などがありますが、遺伝は毛の性質を決める最大の因子です。しかし、一生同じではなく、やはり遺伝的に決められた変化が年齢を追って起こります。すなわち、小児の頭髪はわりに細く、思春期を経て太い硬毛になり、成人のふさふさした髪になります。男性では、髭、胸毛、すね毛も硬毛になり、男女ともに腋毛や陰毛が 硬毛化 こうもうか ] します。これらは、いずれも、思春期から増える男性ホルモンの作用によります。
ところが、同じ男性ホルモンの作用で、男性型脱毛症の遺伝的素質がある男性では前頭~頭頂の頭髪が軟毛化してしまいます。高齢になると、かなりの人が頭髪が薄くなりますが、これも軟毛化の現象です。しかし、高齢では、眉毛、鼻毛、耳毛などがとくに男性で毛深くなり、一方で、腋毛、陰毛が、とくに女性で薄くなります。毛の老化現象にかかわる因子は未だはっきりしません。
4)毛髪の色
 毛髪の色も遺伝的因子が関係し、とくに人種による大きな違いがあります。毛の色は、毛母に存在する色素細胞(メラノサイト)がメラニン色素を作り、それを毛になる細胞に与えているからです。そのメラニン色素の量や質の違いが、毛の色の違いになります。一方、白髪では、この色素細胞がメラニン色素を作らなくなったり、色素細胞が毛母からいなくなるために、毛が白くなります。白髪化も遺伝が関係していますが、色素細胞の老化現象も考えられます。

【脱毛症の概略】

 個々の主な脱毛症については、各論を参照してください。ここでは、簡単に説明します。

円形脱毛症:
成長期の毛の毛根が炎症を起こし、あるとき急に円く抜けてしまうもので、頭全体~全身の毛が脱落してしまうこともあります。→各論参照
抜毛癖(トリコチロマニア):
主に学童期の一種の癖で、児が自ら頭髪などを抜いてしまうものです。内向的で、おとなしい児が多く、精神的なストレスを感じて始めてしまいます。たいてい部分的に抜きますので、円形脱毛症と間違われることもあります。→各論参照
休止期脱毛:
一時的に休止期毛の割合、つまり抜け毛が増え、頭髪が全体に薄くなるものです。お産、高熱の病気や大手術などの後に起きますが、普通は徐々に回復します。
外傷性脱毛:
頭皮に強い圧迫が持続性に加わると血流不足になり、成長期毛根がダメージを受けて退行し、毛が脱落します。硬い床、手術台などに意識無く動かずに寝ていた時に起きます。多くは一時的な脱毛で、いずれ再生します。
瘢痕 [ はんこん ] 性脱毛:
深い熱傷や外傷の後の瘢痕、あるいは瘢痕になる皮膚病では、毛根がまったく消失して、再生しない脱毛巣になります。
薬剤・化学物質による脱毛:
抗がん剤やタリウムなどは、成長期の毛母の細胞分裂を傷害して、毛を作れなくします。頭髪全体が比較的急に脱落します。その影響が無くなれば回復します。
放射線による脱毛:
放射線は、細胞のDNAを変質させ、大量では皮膚全体に回復しがたい傷害を与えます。毛については、瘢痕性脱毛のようになります。
代謝病による脱毛:
腸から蛋白が漏れる病気、飢餓や食思不振症などで極端な低栄養になる状態、あるいは甲状腺機能低下症、亜鉛欠乏症などでは、やはり毛が作れなくなり、頭髪全体の毛が脱落します。状態が改善されれば、回復します。糖尿病では脱毛は起こりません。
感染症による脱毛:
頭部白癬(頭皮や毛に白癬菌が感染)、毛嚢炎(毛孔に黄色ブドウ球菌が感染)などで毛根が壊され、毛が作れなくなります。あまりひどいと、瘢痕性脱毛になります。梅毒でも、病原菌のトレポネーマが皮膚を侵し、毛根も傷害されて、毛がばさばさと脱落することがあります。
膠原病 こうげんびょう ] による脱毛:
全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、強皮症などの膠原病では、皮膚組織も侵される結果、毛根が毛を作れなくなり、脱落します。
男性型脱毛症:
いわゆる「若はげ」で、遺伝的素質がある人が、早いと20歳代から、前頭や頭頂の髪が薄くなります。軟毛化によります。→各論参照
老人性脱毛症:
男性型脱毛症と同様のものとみられますが、高齢になってから徐々になり、老化現象とも考えられます。→各論参照
毛髪奇形:
連珠毛 れんじゅもう ] 陥入性裂毛 かんにゅうせいれつもう ] などの毛髪奇形では、毛が作られても切れやすく、長くならず、脱毛状態になることがあります。
その他:
頭皮の湿疹や皮膚炎でも、かなりひどい場合は、髪が薄くなることがあります。
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