TECS第1回から第6回までは該当サイトニュースをご参照ください。第7回と8回は結論分として、 デジタル技術とアナログ技術の相互補完性・関係を解説しております。
「診療所での手術が当たり前」そんな時代はもう目の前だ
グーグルの研究チームが量子超越性の実証に成功──。2019年9月20日、英国のフィナンシャルタイムズはこう報じた。現在はグーグルの正式な発表を待っている状況であるが、今の時代が第4次産業革命の真っ只中にあることは間違いない。
こうしたデジタル技術の進化は、医療の世界を大きく変える可能性を持っている。その1つに、手術支援ロボットがある。
19年、世界市場の7割を占める「ダヴィンチ」の広範囲の特許が切れることを受けて、日本でも手術支援ロボットの開発競争が激化している。12年度に前立腺がん、16年度に腎臓がんのロボット支援手術が保険適用となり、18年度は食道がんや胃がんなど8つのがんにも適用拡大された。ダヴィンチの特許切れを想定し、日本のメーカーを応援する政策と考えられる。
近い将来、低コストで手術時間が短く、出血が少ないロボット手術支援機器が開発・導入される可能性は高い。白内障手術のように、さまざまな手術が診療所で行われるようになる日は遠くない。
デジタルに関する新しい動きとしては、防衛・軍事産業のグロバールランキングの上位25社の大半が米国企業で、軍事技術がデジタル分野でも優位性を発揮し始めている点も見逃せない。軍需産業の革新的な取り組みの成果は医療分野にも波及してきた。「トリアージ」も第一次大戦で制度化されたものだ。現在、米国防高等研究事業局
は、負傷戦士のためにスマート包帯
注:スマートとは(ハイテク)端末・分散処理を意味し、「光学的、生化学的、生体電子的、機械的を問わず、得られる信号をすべて使って患者を監視し、適切な治療を自動的に調節する。同時期に、民需としてハイテク包帯が発表された。糖尿病や火傷などの症状は慢性皮膚創傷を引き起こし感染や切断につながるケースが多い。メディケア受給者の約15%にこうした症状があり、スマート包帯の実用化が待たれている。日本でも類似の治療法が計画されており、貼り薬にし、点滴や錠剤飲用に代わり、患者の痛みや飲む負担を軽減し、治療の切り札を目指している。
デジタル技術によってPHCも進化を遂げている
プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)も、デジタル技術によって進化を遂げてきた。1978年9月、旧ソビエト連邦アルマ・アタ(現カザフスタン共和国アルマティ)で、世界初のPHCの重要性に関する国際宣言が行われた。それから40年が経過し、先進国の大半は高齢者増にともなう医療費を抑制していくために、かかりつけ医を中心としたPHCに舵を切り始めている。その実現に向けて、デジタル技術の果たしてきた役割は大きい。
たとえば、昔はかかりつけ医と専門医が協力関係を築こうにも、患者の診療情報や画像データの共有に苦労した。これらの情報共有は、インターネットによって簡単にできる。インフラが整ってきたこともあり、わが国では近年、病診や診診連携の重要性が広く認識されるようになってきたのは、周知のことだ。主な内容は次のとおりだ。
こうしたShared Careに関して英国総合医療評議会は、ガイドラインを発表した。
- ① 初期診断・評価後、誰が治療やケアの責任を持つか、医療者の都合やコスト、監視・継続の容易さを理由に決めてはならない。なお、これは患者を含めたすべての当事者間での合意を必要とする。
- ② 関係するほかの医師、看護、その他専門家間の効果的な意思疎通と継続的連絡は必須である。
- ③ 当事者間での推奨・助言で処置や薬剤処方する場合、その必要性を納得できなければならない。
- ④ 処方の評価を他者に任せる場合、資格や経験、知識、技能など、納得できる相手でないといけない。
- ⑤ ジュニア・ドクターに処方を委託する場合、患者情報はもちろん、薬剤の知識や経験がある医師である必要がある。また、ジュニア・ドクターの質問には応答し、必要に応じて協力する義務がある。
- ⑥ 同僚と患者ケアを共有する場合、自分の臨床責任部分の能力が必須である。
- ⑦ 共有医療ケアの取決めを提案する際、専門医は一般診療医の処方する薬剤の助言
注 ができる。
注:服用量の指示、管理手段、治療の方法等を含む、患者の状態について許可されている安全管理情報や認められている指針からの離脱や不許可薬剤使用について患者や一般診療医に説明責任がある。 - ⑧ 患者の継続的ケアに関して、自分の適正に不安がある場合、共有する医師または他の経験者に追加情報や助言を求める義務がある。それでも不安であれば、適切な手配を行う義務がある。
患者中心の医療の最重要事項 SDMという新しい概念
米国の『ニューイングランド医学ジャーナル』(2012年3月号)で、マイケル・J・バリー博士がShared Decision Makingを提唱した。これは、医療者と患者がエビデンスを共有して医療とケアの意思決定をする共有意思決定であり、患者中心の医療における最優先項目である。SDMは英国で12年に立法化され、15年には英国全体で適用されるようになり、法的拘束力も持っている。
SDMでは「Personalized care(個別化医療/テーラーメイド医療)が重要であり、治療計画や提供方法について、患者自身が選択権とコントロール権を持つ。
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第4次産業革命の主要な担い手の1つが医療・介護ケアサービスであることに、間違いはない。この大改革には、Shared CareとSharedDecision Makingの2つを同時進行させていく必要がある。医師主導型の一方通行的な権威主義と、それを裏づける医師免許の永久ライセンス制、AIを筆頭とするデジタル技術に対するアナログ面(対話能力、理念、使命、ビジョン)の重要性を認識させて、制度と運用に組み入れることである。特にデジタルとアナログの相互補完関係については、常に進路確認する必要があると考えている。英国のNHS(保健制度)を常に注視し、分析することが重要である。
(クリニック専門誌「CLINIC BAMBOO」2020.1号より引用・転載)