ペインクリニックの役割

誰もが経験することではありますが、通常は存在しない感覚である痛みは実にいやな感覚であります。しかし、痛みは、私たちの身体に生じている病状を知らせる警告反応としての重要な役割を担っており、生命の健康維持のためには不可欠な感覚です。
痛みを治療しないで、そのまま長く持続すると次第に有害な存在になっていきます。その結果、痛みがより増強するだけでなく、今までにない痛みが出現してくる、いわゆる「痛みの悪循環」に陥ります。そのような状態になると私たちの生活の質、生命の質(Quality of life:QOL)を著しく低下させます。このような痛みの悪循環状態に陥った時はもちろんのこと、陥りそうな時には、出来得る限り迅速に、身体的・精神的な苦痛を適切に緩和することがとても重要になります。その痛みが長期間に亘って持続する慢性痛はもっと耐えられない痛みとなります。
現実的に、高齢化社会を反映して、肩・頸部痛、腰背部痛、下肢・関節痛などの慢性痛で悩まされている人々は2000万人に達するとも言われております。その中でも、全身痛などの難治性慢性痛で困っておられる方も少なくありません。それだけに、長い人生を歩んでいればおのずと痛みに悩まされる機会に遭遇することは稀ではなくなります。そのような痛みに関する悩みに対して専門的に診療を担っているのがペインクリニックです。
治療の対象
痛みは、針で刺すなどの痛み刺激に由来する痛み(侵害受容性疼痛)、神経自身が障害されておこる痛み(神経障害性疼痛)、心情や精神状態と密接に関係する痛み(心因性疼痛)などに分類されています。もちろん、明確には分類できず、重なり合っている場合も多くあります。しかも痛みの期間が長くなればなる程、重なりが強くなって、難治性慢性痛に移行してしまいます。これらすべての痛みがペインクリニックの対象となります。
部位別にみても、頭部・顔面痛・頚肩腕痛・胸部痛・背・腹痛・腰部痛・下肢痛・骨盤内痛・陰部痛など身体のあらゆる部位の痛みが対象となります。病気の種類としては、片頭痛をはじめとする頭痛全般、三叉神経痛、筋骨格系疼痛(筋・筋膜性疼痛、椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、腰椎術後疼痛症候群、肩関節周囲炎、胸郭出口症候群など)、帯状疱疹痛・帯状疱疹後神経痛、がん性疼痛、閉塞性動脈硬化症やバージャー病や膠原病などによる難治性潰瘍、術後痛、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、幻肢痛、腕神経叢引き抜き損傷後疼痛、などがあります。
痛みの治療方法

高周波熱凝固療法
ペインクリニックでは、痛みの治療にあたって、専門的な知識と技術をもとに、症状、身体所見、レントゲンなど様々な検査を駆使して、痛みの原因を診断し、患者さん一人ひとりの身体的状況やライフスタイルを考えて、QOLの維持と向上を最終目標に治療内容を選択していきます。具体的な治療方法としては、適切な神経ブロック療法をはじめ薬物療法、レーザー療法(光線療法)、ボツリヌス注射、高周波熱凝固療法、硬膜外内視鏡(エピドラスコピー)、脊髄刺激電極埋込み術(SCS)のような特殊な技術を用いる治療法や東洋医学療法(鍼治療)など多方面からの治療法を用いて、有害な痛みを緩和するための治療を行っております。
その他、ペインクリニックでは、理学療法や心理療法を行なうこともあります。また、これら専門性の高い技術を用いて突発性難聴、顔面神経痳痺、顔面痙攣など痛みを伴わない疾患の治療も行っています。
近年の高齢化に伴って、ペインクリニックを受診する難治性慢性痛の患者さんの数が著しく増加しています。それだけに医療従事者として痛みを持つ患者さんへの理解が非常に重要になってきます。国際的にも、痛みは血圧、脈拍数、呼吸数、体温に続く第5番目のバイタルサインとして、患者さんの痛みの評価を診療に取り入れる方向にあります。
難治性慢性疼痛患者さんの病状は似ていても、痛みの性質や程度は患者さんによって実にまちまちであります。勿論、痛みは、患者さん本人しかわかりません。それだけに、出来るだけ早期に痛みの治療を開始することが大切です。