特定非営利活動法人 標準医療情報センター

現在英米の医療サービスでは、「SDM:シェアド・デシジョン・メィキング」の考え方が大変支持を受けております。患者が自分の治療に関する意思決定を下すのを支援する臨床医と患者の共同プロセスです。最重視されのが「患者満足度」この考え方に沿った重要な指標が「医療のKPI」です。
尚、ご意見や補足が必要でしたら、どうかご遠慮なくお知らせお願い申し上げます。

 最近、英国、米国の大学研究者と(主にSkypeを通じて)意見交換を頻繁に行っている。英国のほうは、TECS(科学技術が可能にした医療ケアサービス)の功績で大英帝国勲章OBE(名誉将官)を受章した著名な研究者、米国のほうは、私がハワイ大学経営大学院に留学した際のクラスメートである。三者で認識を共有したのは。5G技術の浸透などを背景として、DX化の進展は不可避だが、デジタル技術と医療現場での医療者によるアナログ技術の架け橋的役割として、やはりKPIが重要であるということだった。
 DXとは「Digital Transformation」の略で、デジタル技術であるITの活用を通じてビジネスモデルや組織を変革することを意味する。今後、AI、5G、量子コンピューター、VR(仮想現実)などの導入が期待される。
 ただ、DXをアナログの社会にまでその影響を(良い方向に)及ぼそうとするなら、KPIを正しく設ける必要がある。医療におけるKPIも同様だ。英国のGMO(一般医療協議会)が発行している文章では、「最初の診断や評価後、継続するケアや治療は患者の最善利害に基づくべきである。医療提供者側の都合や医療コストや経過観察コストによって決定してはならない」と戒める一文がある。KPIの設定においても、重視すべきは「患者満足」といえるだろう。

状況分析:米国医療機関のKPI

 筆者は患者満足と病院経営の利益は対立しない、むしろ、鳥瞰的には一致していると考えている。両者をとりもつようなKPIの構成要素として、米国では次のようなものが挙げられているという。

(1)平均在院日数
診療科別・治療内容別に差違があることに留意する。
(2)病床占有率
(3)医療機器の使用率
単純肺活量測定器、超音波噴霧器、車椅子等の使用実績を追跡し、より高い使用率の部門に再配置することも検討する。
(4)入院患者の1人当たり平均薬剤費用
適切な薬剤を提供できない病院は患者ケアが悪影響を受け、結果的に病院の予算引き締めで医療スタッフ不足を招く可能性が高まる。
(5)年齢グループ別平均治療コスト部門
利益を上げるためにも、単純なコスト引き下げをめざすのではなく、異常値の経費を見つけ、その是正に向けた努力が必要である。
(6)患者病室回転率
患者の退室で病室の清掃、次の患者用治療機器の準備・設置、他医療品の搬入は病室回転率に組み入れられる。
(7)患者フォローアップ率
特定の治療後のフォローアップとして、医学的検査、血液検査、医師問診、新しい処方薬服用等が含まれる。
(8)短期での再入院比率
メディケアの規定では30日以内。米国では平均24.9%が該当したという調査もある。
(9)患者の待ち時間
(10)患者に対する医療専門人員比率(医師・看護師や検査・放射線技士、臨床工学士等)
患者に対して高い比率は今後の患者を誘引する可能性高く、低いと、患者減少の要因になる可能性がある。
(11)患者の予約に対する履行率
履行率を改善するため、電話やメールで予約日時のReminderで注意喚起
(12)院内感染
米国のある病院における5大院内感染症の構成比率は、①尿路感染症(37%)、②外科的創傷感染症(20%)、③血流感染症(16%)、④肺炎(15%)、⑤抗菌薬関連下痢症(13%)──となっている。これをさらに、手術後感染、呼吸器感染、治療関連疾患に区分けする必要がある。
(13)救命救急室の待ち時間
患者が救命救急室に搬送された時間から医師 に診療を受ける時間までの時間を指し、(9)の待ち時間と合わせ、医療専門人員の比率と同様に改善努力が必要である。さらに、一般患者と救命救急室患者の受付時間効率の改善は同時並行的に図る努力が求められる。

 後日、ここに挙がったKPIについて英国の研究者の見解を求めると、「死亡率(death rate)」が欠落しているとの指摘を受けた。特定病院の死亡率の指標を医療者以外の人たちにストレートに開示することは大変困難で、誤解や衝撃も大きい。米国で死亡率をKPIに組み入れていない理由の追求も含め、今後の課題としたい。

(病院専門誌「PHASE3」2021年5月号より引用・転載)

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