特定非営利活動法人 標準医療情報センター

NPO法人標準医療情報センター(理事長/花岡一雄・東京大学名誉教授)は2007年に発足、ウェブサイト運営を通じて一般市民に向けた医療情報提供事業を展開してきた。20年の新型コロナウイルス感染症の拡大を経て、そのアクセス状況に変化が見られたという。同センターの同センターの活動に参加している森下正之・医療シンクタンクNPO主幹研究員が報告する。

標準医療情報センターについて

 NPO法人標準医療情報センターは、公正・中立な立場で医療情報の提供、調査研究等の事業を行うことにより、保健および医療にかかわるさまざまな機関、企業、個人等の連携・協力を促進して、医療サービスの品質、信頼性・効率性の向上を図り、個人生活の質の向上に寄与することを目的に、下地恒毅初代理事長のご尽力によって2007年に設立された。
 活動方針としては、①医師・看護師、薬剤師等を含めた医療専門家に、患者・家族がどのようなアクセス行動を見せているのかをフィードバックし、お問い合わせに応じて詳細なデータを提供する、②医療職と患者・家族が共通の目的を共有し、患者・家族の満足度、医療職の充実感の向上に寄与する──を掲げ、取り組んでいる。
 また、主な取り組みとして、健康保険が適用可能な疾患の情報についてはウェブサイト上で情報提供しており、その取り組みの一端を報告する。

新型コロナ緊急事態宣言前後の変化

 サイトへのアクセスにおいて、20年の新型コロナウイルス感染症の拡大とともに、その傾向に大きな変化が起きている。
 具体的にいうと、4月7日に7都道府県(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県)に対して緊急事態宣言が発出されたが、その前後の期間、つまり、3月と5月(表参照)で明らかな違いが確認できたので、ここでは、アクセス数の変化を中心に、その概要を報告する(*1)。

  • 3月が7797人であったのに対し、5月が2万6877人と3.4倍に急増した
  • 3月と5月の上位25疾患のアクセス人数はそれぞれ78.7%、79.8%で、パレート分析上のデータの質を裏づけるものと考えられる
  • 上位25疾患の平均ページ滞留秒数は3月が4分5秒、5月が4分33秒と30秒ほど長くなっている
  • 上位25疾患のページのうち、1〜5位は不動だった
  • 上位6〜25位の疾患のうち、5月に初めてランク入りしたのは「統合失調症」「急性白血病」「脳出血」「摂食障害」の5つ
  • 上位6〜25位の疾患のうち、3月にランク入りし、5月にランクから外れたのは「悪性リンパ腫」「緑内障」「心停止後の臓器提供(DCD)」「尿路結石」の4つ

(*1): 各疾患別アクセス人数と各疾患別平均滞留秒数の関係について、有意水準5%で正の相関関係が成立する。統計学で有意水準を0.05に設定すると、5%以下の確率で起こる事象は、100回に5回以下しか起こらない事象だ。このまれな事象が起こった場合、偶然起こったものではないと解釈する

新型コロナ緊急事態宣言前後の変化

 同時期(20年5月)に見られた、疾患別アクセス数を性別・年齢別に分析した(*2)。

(*2):男女の性別・年齢の不明は2020年5月の上位5疾患について平均59.5%あった

表 2020年5月の疾患別ユーザー数とページ滞留秒数
項目 件数(件) 累積比率(%) 全体平均秒数:257.6秒
上位25の平均値:273.64秒
1~25位小計 21472 0 ページ滞在秒数
01 心的外傷後ストレス障害(PTSD) 6132 22.8 440.36 1.60倍
02 脱毛症[円形脱毛症] 2496 32.0 371.69 1.35倍
03 子宮筋腫 1316 36.9 365.34 1.33倍
04 胃がん 1253 41.5 340.69 1.24倍
05 急性上気道感染症ー 1088 45.6 265.50 0.97倍
06 膀胱炎 854 48.8 309.78 1.13倍
07 脳梗塞 847 51.9 323.89 1.18倍
08 片頭痛 746 54.7 258.12
09 子宮がん(子宮頸がん) 650 57.1 260.93
10 急性膵炎 632 59.4 300.25 1.09倍
11 睡眠障害 480 61.2 243.64
12 漢方薬の最新知見 469 63 374.07 1.36倍
13 変形性膝関節症(膝OA) 432 64.6 252.40
14 顔面神経麻痺 413 66.1 224.57
15 統合失調症 412 67.7 423.52 1.54倍
16 慢性痛 —現状とその治療 389 69.1 204.59
17 大腸がん 377 70.5 305.82 1.11倍
18 脱毛症[総論] 335 71.7 209.36
19 変形性股関節症 334 73 206.06
20 胃潰瘍 322 74.2 167.93
21 急性白血病 320 75.4 360.89 1.31倍
22 脳出血 306 76.5 174.62
23 前立腺がん 304 77.7 179.00
24 摂食障害 298 78.8 206.26
25 NPO標準医療情報センター組織案内 267 79.8 71.66

アクセス数1位「心の痛み」

  • 男性(913人)中、25〜34歳が34.7%で最多、続いて35〜44歳が27.2%、18〜24歳が15.2%となっている
  • 女性(1341人)中、35〜44歳が30.4%で最多、続いて25〜34歳が29.2%、18〜24歳が17.4%となっている

アクセス数2位の「円形脱毛症」

  • 男性(356人)中、25〜34歳と35〜44歳がいずれも35.7%で突出して多く、3位以降は合計しても30%に満たない
  • 女性(591人)中、35〜44歳が42.1%、25〜34歳が25.9%、45〜54歳は12.9%

アクセス数3位の「子宮筋腫」

  • 男性(145人)中、35〜44歳が38.6%で最多、続いて25〜34歳で24.1%
  • 女性(429人)中、35〜44歳が44.8%で最多、続いて25〜34歳で21.7%、3位が45〜54歳で16.1%

女性特有の疾患にもかかわらず、全体の約25%を男性が占めている。配偶者、親族、女性の友人・同僚等、自分以外の人たちのためにアクセスしていると推察される。

アクセス数4位の「胃がん」

  • 男性(243人)中、25〜34歳が33.7%で最多、35〜44歳で25.1%。この2層で60%近くを占めていることになる
  • 女性(242人)中、25〜34歳が37.6%で最多、35〜44歳で27.3%。この2層で55%弱を占めていることになる

アクセス数5位「急性上気道感染症」

  • 男性276人中、35〜44歳が35%で最多、続いて25〜34歳で20%
  • 女性246人中、25〜34歳が28.5%で最多、続いて35〜44歳で26.8%

今後もさまざまなデータ分析に取り組んでいく計画である。ご意見・ご助言をお寄せいただければ幸いである。

(病院専門誌「PHASE3」2021年2月号より引用・転載)

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