特定非営利活動法人 標準医療情報センター

1.はじめに

 医療経営の効率性を高めるうえで、MS法人は有用だ。しかし規模の小さな開業医では、その機能を十分に活かしきれないという指摘もある。20年以上にわたって英国の医療を研究してきた、NPO標準医療情報センターの森下正之氏に、開業医におけるMS法人活用の方向性について寄稿してもらった。

2.MS法人の担っている主な業務

 MS法人とは、いわゆる「メディカルサービス法人」の略称であり、法的な法人類型を指すものではない。基本的には、株式会社や有限会社などと同じ位置づけとなっている。

 医療法人は、医療法において収益業務が厳しく規制されている。 そこで、経営の効率性を高めるために、本来業務以外の事業についてはMS法人を設立しているケースも増えている。

一般的にMS法人は、次のような業務を担っている。

  • ①受付・会計事務に関する業務

    診療報酬請求事務、会計、窓口、 受付、経営管理業務など

  • ②医療施設のメンテナンス業務

    清掃・衛生業務、設備管理、保守業務など

  • ③医療機器・薬剤の仕入れ・在庫管理業務

    医薬品、医療材料、医療機器、消耗品、医療器具の管理など

  • ④その他

    医旅機器・設備のリース、土地建物の貨貸管理業務、給食業務および食堂の経営など

 これらのほかに、近年では、MS法人を介して社債発行や証券化、新株発行など通常の株式会社が行っているような資金調達や、MS法人を活用して看護師養成学校の運営、訪問看護や訪問介護といった事業展開を目的としているケースも増えている。

3.MS法人設立の有用性

 規模の大きな医療法人を中心に、 広くMS法人の活用が進んできた。ただし、2014年の医療法改正で、医療法人とMS法人の関係性の透明化が規定され、医療法人は MS法人を含めた関係事業者との取引に関する報告書を毎年度、都道府県知事に提出することが義務づけられた。また、取引の適正性を担保するため、入札や同業他社の相見積もりをとることなども求められている。

 もちろん、開業医においてもMS法人の設立は認められている。ただし、開業医の場合、医薬品や 医療機器の購入量はそれほど多くない。受付や会計等に配置する人員も少ないため、効率性の向上についてはあまりインパクトはないかもしれない。

 医療法人は従前、一般的な民間企業との取引において「武士の商法」的な商慣行や常識から逸脱する考え方を持ち込まれ、しばしば不利益を被ってきた。こうした状況を打開するために、MS法人と営利企業を子会社として抱えることは有益だと考えている。

4.英国非営利診療所の現状

 英国の非営利診療所では、MS関連業務の外部委託が進んでいる。その背景には、グループ診療と医師免許の更新制があると考えている。英国のプライマリ・ケアを担う非営利診療所では、過疎の市町村を除いて、通常、複数のGPが所属し、グループプラクティスを実践している。

 そして、関連業務に関しては専任のマネージャーを雇用し、医師は診療業務に専念できるようにしている。

 日本と違って英国では、医師の免許更新制が導入されている。これは自動車免許の更新とは違って、5年ごとの更新試験が課されているが、自動車免許の更新要件とは異なり、医療技術の進歩に合わせて毎年達成要件が課され、5年ごとに最終審査を受けるという仕組みになっている。

 そして、グループプラクティスを行っている医師は、更新時期を迎えると診療業務が軽減され試験に専念できるようになっている。英国の場合、医師1人開業医だと免許の更新が大きな負担になる。更新時期の異なる複数医師によるグループプラクティスの実践とMSの活用は、自衛の意味もあるのだろう。

5.開業医のMS法人活用の方向性

 医療の効率性を高めるために、MS法人をもっと活用すべきだと考えている。しかし、前述のとおり、日本では医師の免許更新制がなく開業医は規模も小さいため、一次医療の現場ではあまり機能していない。そこで現状を打破するために、複数の開業医でMS法人を設立し、共有するという方法を提案したい。

 具体的には、地域の開業医が株主になってMS法人を設立し、株主となった開業医は、ここに医薬品や医療機器などの購入や管理、不動産の管理業務などを委託するという方法である。いわば、開業医でも規模の大きな病院と同様に、価格交渉を含めた購買管理などの部門を確立できるということだ。開業医でも共同でMS法人を持つようになれば、規模の利益を享受できるようになるし、多くの案件をこなすことはMS法人の専門性の向上にもなり、ひいては、価格競争力はさらに上がるという好循環も期待できる。

6.医師免許更新制の必要性

 少し話が横道にそれるが、私は、医師の免許更新制日本でもを導入すべきだと考えている。

 たとえば、デジタル技術革命によって医療は急速に進化・発展しており、これら新しい技術や治験を一次医療の現場で活用することが、受診中断の防止や重症化の予防、ひいては医療費の削減にもつながると考えている。

 現在、地域医療構想など、一次~三次まで効率的な医療を提供するための仕組みづくりが進められているが、英国の医療を20年以上調査してきた立場から言わせてもらうと、これには一次医療の機能強化が不可欠だ。しかしながら、開業医のなかには、新しい知見のアップデートが遅れている人が少なくない。こうした現状が患者を高次機能病院に走らせている一因になっているのではないか。

 医療提供体制の最適化という観点からも、医師の免許制の導入は早急に検討すべき事項だと確信している。

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