特定非営利活動法人 標準医療情報センター

痛みをやわらげる科学

痛みをやわらげる科学

◆ 発行:SBクリエイティブ
◆ 発売日:2018年9月15日
◆ 本体:新書 240ページ
◆ 定価:本体1,100円
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はじめに (本書「はじめに」より引用)

 生きているかぎり、心身の痛みは大なり小なり誰もが経験するものです。逆説的な表現になりますが、痛みは生きている証拠であるとも言えます。生きていくうえで大切なのは、その痛みの原因を明らかにし、痛みをどうコントロールするかなのです。そこで本書では、痛みとはなにか、といった根本的な話から、痛みの原因やそれがもたらす健康障害、そして痛みをコントロールするための治療法や予防法までを記してみることにしました。
 痛みと一言でいっても、その意味する内容はいろいろです。身体の痛みだけでなく、心の痛みともいえる悲しみや悩み、不安緊張、高度のストレスなどもそれにあたります。また、身体の痛みと切り離せない感覚であるしびれなどの異常感覚、身体のだるさ、大きな手術後によく起こる身の置きどころのないようなけだるさ、きつさなども含まれます。
 これらの感覚はすべて、病的な痛みの感覚として神経を介して生じます。末梢神経で神経情報として受け取られたこれらの感覚は、脊髄で変調(大きくなったり小さくなったり、性質が変わったりすること)を受け、さらにその情報は脳にのぼって視床という部位で中継され、大脳皮質の感覚野で感じ取られ、さらに大脳辺縁系という場所で苦痛となってその人の感情全体を支配してきます。今度は、そこから脳の中心の深い部分にある視床下部という部位に伝えられ、自律神経やホルモンの病的な変化を全身にもたらします。
 一方、悲しみや悩み、不安緊張、高度のストレスは、身体の痛みに対する域値を下げ(痛みに敏感になり)、痛みの程度を増強します。さらに、本来は正常であるはずの体の部位に新たな痛みを生じさせることがあります。
 痛みの感覚は、本来、病的状態を異常信号として脳に知らせ、それから回避させるために備わった生体の警報装置のようなものです。ところが、ひとたび病的状態になると、逆に人や動物を苦しめます。種々の原因による痛み自体が、病気の本態になってしまうからです。それはあたかも免疫機構が異常に高まると、その人自身の身体を障害してしまうのとよく似ています。
 不快が持続すれば心身が正常に機能できなくなります。短期間に痛みや不快さを避けることができると、心身の機能は正常に戻ります。しかしそれが避けられず、あるいは持続すると、障害を受けた心や身体の機能はなかなか正常に戻りにくくなります。これが問題なのです。痛みは記憶され、種々の悪循環を生む原因になるのです。例えば、痛み→不安→交感神経緊張→循環への悪影響(血圧上昇、心拍増加)と抹消循環障害→状態悪化→痛み増強、といった具合です。
 第1章と第2章では、こうした痛みに関する数々の疑問について、意識や感情、自律神経との関わりなどの話を交えながら、これまでにわかっていること、そしてまだ解明されていないことについて述べていきます。第3章では、痛みを起こす病気にはどんなものがあるのか、実際に臨床で見られる痛みの病気について述べます。そして第4章では、痛みの病気についてどんな治療が現在行われているか、また心身の痛みに対する私たちの心がまえや戦略などについても、ペインクリニシャンの立場から私見を述べてみたいと思います。
 本書は厳密な意味での科学書ではありませんが、科学的な事実をそのままできるかぎり平易に述べつつ、50余年にわたる臨床経験にもとづいた著者の考えを加えてあります。文中、医学用語はできるだけ避け、日常の言葉で語るように心がけましたが、病名や解剖名はやむなくそのまま使用しました。初版の刊行から10年近くが経過した本書ですが、その間、友人や患者さんからいろいろな温かいご批判をいただきました。本改訂版では、それらの声に応えるべく、より読みやすく、またできるだけ最新の医学情報を付加するよう心掛けました。本書の内容から、みずからの心身の痛みにどう応用していけばいいのか、読者のみなさんがなんらかの示唆を得られるならば、著者の望外の喜びです。末筆ながら、編集と改定の労を引き受けてくださった出井貴完氏に深謝します。

2018年8月 下地恒毅

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