
現在、アトピー性皮膚炎については、テレビ、雑誌、インターネットなどから様々な情報が得られますが、残念ながら、それらの中には間違った情報も多く、患者さんが混乱する原因ともなっています。
アトピー性皮膚炎には、きちんとした治療ガイドラインがあります。アトピー性皮膚炎の診療に関わる臨床医を広く対象としてつくられたものとして、「厚生労働省科学研究によるアトピー性皮膚炎治療ガイドライン」があります。ここでは、それを示します。
【アトピー性皮膚炎の概念】
アトピー性皮膚炎は、悪くなったり、良くなったりを繰返す、痒みのある湿疹を主な病変とする病気で、患者さんの多くはアトピー素因を持っています。
【本ガイドラインの要点】
治療ガイドラインの要点を模式的に示します(図1)。

1.診断
上で述べた概念に従って、似た症状を示す他の病気(湿疹・皮膚炎群など)と区別し、適切に診断されなければなりません。
2.皮膚症状の評価
治療法を選ぶためには、皮膚症状を適切に評価する必要があります。
3.治療の基本
上で述べた評価に基づいて、それぞれの患者さんの原因・悪化要因の検索・対策、スキンケア、薬物療法を適切に組み合わせて行います。患者さんには治療に関する情報を十分に伝え、患者さんと良好な関係を築くよう努力します。
- ■ 診断基準について
- 我が国の診断基準には、日本皮膚科学会基準(全年齢が対象)と厚生省心身障害研究班基準(小児が対象)がありますが、おおまかには同じであり、日常診療ではどちらかの基準に基づいて診断します。
- ■ 重症度の目安
- 軽症:面積に関わらず、軽度の皮疹だけがみられる。
中等症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%未満にみられる。
重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%以上、30%未満にみられる。
最重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上にみられる。
治療の基本となる (1)原因・悪化因子の検索と対策、(2)スキンケア、(3)薬物療法について、それぞれ説明します。

(1) 原因・悪化因子の検索と対策
患者さんによって原因・悪化因子は異なるので、それぞれの患者さんごとにそれらを十分に確認してから除去対策を行います。以下に、年代別の主な原因・悪化因子を模式的に示します(図2)。
(2) スキンケア(異常な皮膚機能の補正)
アトピー性皮膚炎では様々な皮膚機能異常があります。主なものとして、水分保持機能の低下、痒み閾値の低下、易感染性があり、これらが皮膚炎の発症および増悪に深くかかわることが知られています。これらの皮膚機能異常の補正のために適切なスキンケアが必要です。
- 皮膚の清潔
- 毎日の入浴、シャワー
- 汗や汚れは速やかにおとす。しかし、強くこすらない
- 石鹸・シャンプーを使用するときは洗浄力の強いものは避ける
- 石鹸・シャンプーは残らないように十分すすぐ
- 痒みを生じるほどの高い温度の湯は避ける
- 入浴後にほてりを感じさせる沐浴剤・入浴剤は避ける
- 患者あるいは保護者には皮膚の状態に応じた洗い方を指導する
- 入浴後には、必要に応じて適切な外用剤を塗布する
- 皮膚の保湿
- 保湿剤
- 保湿剤は皮膚の乾燥防止に有用である
- 入浴・シャワー後は必要に応じて保湿剤を塗布する
- 患者ごとに使用感のよい保湿剤を塗布する
- 軽度な皮膚炎は保湿剤のみで改善することがある
- その他
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- 室内を清潔にし、適温・適湿を保つ
- 新しい肌着は使用前に水洗いする
- 洗剤はできれば界面活性剤の含有量の少ないものを使用する
- 爪を短く切り、なるべく掻かないようにする
(手袋や包帯による保護が有用なことがある)
(3) 薬物療法
炎症を抑えるためには適切な薬物療法が必要です。その基本は以下のとおりです。
- 【薬物療法の基本】
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- ステロイド外用薬の強度、剤型は重症度に加え、個々の皮疹の部位と性状および年齢に応じて選択する。
- ステロイド外用薬に際して、次の点に留意する。
- 顔面にはステロイド外用薬はなるべく使用しない。用いる場合、可能な限り弱いものを短期間にとどめる。
- ステロイド外用薬による毛細血管拡張や皮膚萎縮などの副作用は使用期間が長くなるにつれておこりやすい。
- 強度と使用量をモニターする習慣をつける。
- 長期使用後に突然中止すると皮疹が急に増悪することがあるので、中止あるいは変更は医師の指示に従うよう指導する。
- 急性増悪した場合は、ステロイド外用薬を必要かつ十分に短期間使用する。
- 症状の程度に応じて、適宜ステロイドを含まない外用薬を使用する。
- 必要に応じて抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬を使用する。
- 1~2週をめどに重症度の評価を行い、治療薬の変更を検討する。
*16歳以上のアトピー性皮膚炎患者を対象に非ステロイド系免疫抑制薬であるタクロリムス外用薬(プロトピック軟膏®)が開発され、特に顔面の皮疹に対して有用であるが、その使用はガイダンスにのっとって慎重に行う。
(*その後、小児用タクロリムス軟膏が承認され、16歳未満でも使用できるようになっています。ガイダンスでは、その使用、とくに一日使用量について年齢により制限が加えられています。)
以下に薬物療法の基本例を模式的に示します(図3)。

【経過中の注意事項】
- アトピー性皮膚炎は、伝染性膿痂疹、カポジ水痘様発疹症、伝染性軟属腫などの感染症を合併しやすいため、これらの早期発見に努め、速やかに適切な処置を行う。
- 眼病変(特に白内障、網膜剥離など)の合併に注意する。眼を強くこする、あるいは叩くなどの外傷性要因は眼病変の発生・悪化につながる可能性があるので留意する。
- 外用薬により接触皮膚炎をおこす可能性もあるので、症状が遷延・悪化する場合は注意する。
- このガイドラインは一般的なめやすであり、個々の患者によってはこの限りではない。
- このガイドラインに従って1か月程度治療しても改善が見られない場合は、専門の医師または施設への紹介を考慮する。
■ 付記
今後新しい治療法が開発されて、その有用性が明らかにされれば、順次修正・追加していくものとする。