救急医学における終末期医療│特定非営利活動法人 標準医療情報センター


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【救急医療における終末期とは】

以下の特徴があります 。

  1. 突然発症した重篤な疾病や不慮の事故による
  2. 患者・家族は事前に疾病や事故を想定できない
  3. 患者・家族と主治医の関係が突発的に始まっている
  4. 適切な救急医療が継続されている
  5. 死が間近に迫っている

【終末期の定義とその判断】

 このガイドラインは以下のように具体的に記述していることが特徴です。
 主治医を含む複数の医師により、以下の4つのいずれかのような状態と客観的に判断されています。
 救急科専門医*はこれらの終末期の定義を妥当と考えています。

*注)救急科専門医:急病の方を診療科に関係なく診療し、特に重症な場合に救命救急処置、集中治療を行うことを専門とする医師です。病気やけがの種類、治療の経過に応じて、適切な診療科と連携して診療に当たります。救急科専門医は救急医療制度、救急隊員活動の質の管理、災害医療においても指導的立場を発揮します。

  1. 脳死不可逆的(=決して改善することがなく、確実に死に至る)な全脳の機能不全(=機能がすべて失われている)である。脳死診断後や脳血流停止の確認後なども含まれる。

    (右図:脳死の概念です。)
  2. 生命維持装置当初「救命の可能性があるかもしれない」と考えて生命維持装置(人工心肺装置、急性血液浄化装置、人工呼吸器、など)が装着されました。しかしその後、生命は新たに開始された人工的な装置に依存し、生命維持に必須な臓器の機能不全が不可逆的であり、移植などの代替手段もないことが解りました。生命維持装置は単なる延命装置になっています。

    (右図:重要臓器の機能がもとに戻らない状態です。生命は生命維持装置に依存しています。)

  3. 集中治療室その時点で行われている治療に加えて、さらに行うべき治療方法がなく、現状の治療を継続しても数日以内に死亡することが予測されます。当初「救命するためには行った方がよい」と考えた医療は「単なる延命措置」になっています。

    (右図:集中治療室(ICU: intensive care unit)では患者様に10本以上のラインがつながり、24時間体制で治療が継続されています。それにもかかわらず状態は改善しておらず、数日以内に死亡することが予想されています。)
  4. 終末期積極的な治療を開始しましたが、その後になって悪性疾患や回復不可能な疾病の末期であることが判明しました。

    (右図:悪性疾患あるいは回復不可能な疾病の末期である患者様が突然発症した重篤な疾病や不慮の事故で終末期状態になっています。)

【終末期と判断した後の家族への説明プロセス】

主治医は家族や関係者に対して以下を説明し理解を得ます。
・上記の状態で病状が絶対的に予後不良です。
・治療を続けても救命の見込みが全くありません。

本人のリビング・ウイルなど有効な「事前指示」を確認します。
主治医は「延命処置への対応」に関して家族らの意思を確認・判断します。

【延命処置への対応】

a. 家族らが積極的な対応を希望している場合
本人のリビング・ウイルなど有効な「事前指示」を確認し尊重します
 「患者の状態が極めて重篤で、現時点の医療水準にて行い得る最良の治療をもってしても救命が不可能である」旨を家族らに伝達し、意思を確認します。
 家族らの意思が引き続き積極的な対応を希望している時にはその意思に従います。
 結果的に死期を早めてしまうと判断される対応などは行わず、現在行われている措置を維持します。
b. 家族らが積極的な対応を希望しない場合
複数の医師、看謹師らを含む医療チームは以下のいずれかを選択します。
1) 家族らが延命措置中止に対して「受容する意思」がある場合
患者にとって最善の対応をするという原則で以下を進めます。
家族らとの協議の結果により以下の優先順位に基づき、延命措置を中止する方法について選択します。
  • 本人のリビング・ウイルなど有効な「事前指示」が存在し、加えて家族らがこれに同意している場合はそれに従います。
  • 本人の意思が不明であれば、家族らが本人の意思や希望を推し量り、家族らの容認する範囲内で延命措置を中止します。
 家族らの総意として意志を確認した後に、医療チームは「延命措置を中止する方法」として適切な対応を選択します。
 本人の事前意思と家族らの意思が異なる場合には、医療チームは患者にとって最善と思われる対応を選択します。
2) 家族らの意思が明らかでない、あるいは家族らでは判断できない場合
主治医を含む医療チームが延命措置中止の是非、時期や方法について判断します。
患者本人の事前意思がある場合には、それを考慮して医療チームが対応を判断します。
これらの判断は主治医、あるいは担当医だけでなされたものではなく、医療チームとしての結論であることを家族らに説明します。
選択されて行われる対応は患者にとって最善の対応であり、かつ「延命措置を中止する方法」の選択肢を含め、家族らが医療チームの行う対応を納得されていることが前提となります。
3) 本人の意思が不明で、身元不詳などの理由により家族らと接触できない場合
延命措置中止の是非、時期や方法について、医療チームは慎重に判断します。
医療チームによる判断や対応は患者にとって最善の対応であることが前提です。

【「延命処置を中止する方法」についての選択肢】

このガイドラインは以下のように具体的に記述していることが特徴です。
以下の選択肢ではこの2つが考慮すべき課題になっています

  • すでに装着した生命維持装置や投与中の薬剤などを中止する
  • それ以上の積極的な対応などをしない

いずれにしても、薬物の過量投与や筋弛緩薬投与などの医療行為により死期を早めることは行いません。

  1. 人工呼吸器、ペースメーカー、人工心肺などを中止、または取り外す。
    (短時間で心停止となるため原則として家族らの立会いの下に行う)
  2. 人工透析、血液浄化などを行わない。
  3. 人工呼吸器設定や昇圧薬投与量など、呼吸管理・循環管理の方法を変更する。
  4. 水分や栄養の補給などを制限するか、中止する。

 救急科専門医は、延命処置を中止する方法に関して、「人工透析、血液浄化などを行わない」および「人工呼吸器設定や昇圧薬投与量など、呼吸管理・循環管理の方法を変更する」に関しては比較的肯定的に認識しています。
 救急科専門医は、「人工呼吸器、ペースメーカー、人工心肺などを中止、または取り外す」、「水分や栄養の補給などを制限するか、中止する」に関しては「延命処置を中止する方法」として未だ意見が分かれています。

【救急科専門医とこのガイドライン】

 2012年のアンケート調査では救急科専門医の82.4 %がこのガイドラインの内容を認識しており、88.9%の専門医がこのガイドラインは必要であると回答しています。そして24.8 %の専門医が終末期の診療にガイドラインを取り入れています。これらの数字は現在ではさらに高いと考えられます。

 救急科専門医も「説明や同意の内容について正確な記録を残す」、「リビング・ウイルなど本人の意思を確認する」、「落ち着いた環境で説明することに配慮」などの点において、このガイドラインを使用して終末期の実践を行っています。

【ガイドラインを適応しようとしてできなかった事例の理由 】

 アンケート結果では、家族の意見がまとまらなかった、医療チーム内で意見がまとまらなかった、法的な問題が未解決である、社会の合意が得られていない、中止や撤退の方針が一致しない、などがあげられています。

【おわりに】

 救急医療での終末期のガイドラインは、主治医を含む医療チームと、家族・関係者、社会、法曹、行政、などの総意を得ながら、今後さらによい方向に修正されていくと思います。

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