乳がん│特定非営利活動法人 標準医療情報センター


  • 病気の標準治療法解説 疾患一覧へ
  • 診療ガイドラインとは

【乳がんの治療】

初めて乳がんと診断された患者さんに行われる治療(初期治療)を中心として解説します。
乳がんの治療には、手術、放射線治療、薬物治療があります。

局所的治療 全身的治療
  • 手術
  • 放射線治療
  • 薬物治療
    (乳房から離れた臓器にがんが転移(=遠隔転移)しているような場合にも有効)
治療法フロー

1. 手術

乳がんの手術では、乳房内の病変を取り除く手術のほかに、わきの下のリンパ節(=腋窩リンパ節)に対する手術を行うことが一般的です。

■ 乳房に対する手術
乳房部分切除術
追加切除乳房の一部分を切除する方法で、乳房のふくらみが残ることが長所です。癌が広範囲に広がっている場合や、乳頭に近い位置にあり、ふくらみがうまく残らない場合はこの方法は選択できません。原則として、術後に残った乳腺組織に新たながんの発生や再発を予防するために放射線を照射します。切除した組織を顕微鏡で調べて(病理検査)、がんを取り残した可能性がある場合は、乳房を追加して切除する必要があります。
乳房切除術
乳房を全部切除する方法です。
乳房/乳房部分切除術
■ 腋窩リンパ節に対する手術
腋窩リンパ節郭清
乳がんの転移がおこりやすい腋窩リンパ節を切除する方法です。腋窩リンパ節へ癌細胞がどの程度転移しているかは術後の治療を決める重要な因子となります。腕のリンパ液の流れの一部は腋窩を経由しますので、腋窩リンパ節郭清を行った場合、腕に負担がかかった時などにむくみ(リンパ浮腫)を起こすことがあります。
センチネルリンパ節生検
生検手術前の診断で腋窩リンパ節に転移がないと考えられる患者さんに行われる方法です。腋窩リンパ節郭清を行う場合より、リンパ浮腫を起こしにくいと考えられています。センチネルリンパ節とは、リンパ管に入ったがん細胞が最初にたどり着く腋窩リンパ節のことです。このリンパ節に転移があるかどうか、病理検査で手術中に調べます。転移がなかった場合、がん細胞はこのリンパ節までたどり着いていないと考え、その先にがんの転移はないと判断し、残った腋窩リンパ節を切除しません(腋窩リンパ節郭清の省略)。このリンパ節に転移があった場合、その先にがんの転移がある可能性がありますので、そのまま腋窩リンパ節郭清を行います。センチネルリンパ節は、色素や放射性物質を病変の近くに注射してリンパに沿って流れることによって見つけます。
【合併症】
わきの下や乳腺を切除したところに液がたまる
手術後腋の下や乳腺を切除したところに液がたまることがよくあります。手術の際、液を抜く管(ドレーン)をいれたり、ドレーンを抜いた後にも液がたまるようであれば、針を刺して液を抜いたりします。
腕や肩の運動障害
腋窩リンパ節を切除するために、腋の下に傷があると腕や肩に動かしづらいことがありますが、術後にリハビリテーションを行うことによって解消することができます。
手術創部の皮膚の知覚障害
手術創部の周辺は感覚が鈍くなります。そのため、腫れたような感覚がすることもあります。ゆっくりではありますが自然に軽快します。
腕がむくむ(リンパ浮腫)
腕のリンパ液の流れの一部は腋窩を経由しますので、腋窩リンパ節の手術を行った場合、腕に負担がかかった時などにむくみ(リンパ浮腫)を起こすことがあります。マッサージや専用のスリーブを用いて治療します。

2. 放射線治療

【目的】
  • 手術後にがんが再発するのを予防するため行う場合
  • がんが転移したところの痛みをとるあるいは病巣を小さくする
放射線治療部位
残存乳房への放射線治療
乳房部分切除を行った場合に、残った乳腺組織に新たながんの発生や再発を予防するために放射線を照射します。
鎖骨上下窩リンパ節への放射線治療
腋窩リンパ節に転移が多くあった場合は、腋窩リンパ節の次にがんが転移すると予測される鎖骨上下窩リンパ節へ放射線治療を行います。(乳房を切除する範囲は関係しません)
再発・転移した部位への放射線治療
がんが転移したところへ痛みをとる、あるいは病巣を小さくする目的で行われます。

副作用として皮膚の日焼けのように赤くなったり、ひりひりするほかまれに放射線性肺炎を起こすことがあります。

3. 薬物治療

【目的】
  • 手術前に乳房切除術を要するような大きなしこりを小さくして乳房部分切除を行う(術前化学療法)
  • 手術後がんの再発を予防する
  • 遠隔転移に対する治療

ホルモン療法、化学療法、分子標的薬が用いられます。
生検や手術で得られたがん組織のER、PgR、HER2の状態を調べてどの薬を用いるか決めます。

薬物治療
ホルモン療法(抗エストロゲン薬・LH-RHアゴニスト・アロマターゼ阻害薬)
がん細胞に女性ホルモンを受け取る受容体(ER:エストロゲン受容体・PgR:プロゲステロン受容体)が存在すれば、使用されます。閉経前と後で、使用される薬が異なります。
化学療法
いわゆる抗がん剤です。多くが点滴薬で、白血球が減って免疫力が低下したり、脱毛などが副作用としてしばしば見られます。抗がん剤の種類は多数あり、組み合わせによって、投与スケジュールや副作用は異なりますので、詳しくは主治医の先生にお聞きください。
分子標的薬(トラスツズマブ)
がん細胞が増殖因子を受け取る受容体(HER2)を多く持っていれば、効果が期待できます。おもな副作用は悪寒や発熱のほかに心機能障害があります。

主なホルモン療法の作用
ページトップへ