
人口の高齢化や糖尿病の増加などに伴い白内障患者が増加している。平成14(2002)年3月に厚生科学研究費補助金(21世紀型医療開拓推進研究事業:EBM分野)より白内障に対する予防、診断、治療方針に対する基本的指針を示すためのガイドラインにより白内障診療に対する基本的指針が示されている。
【ガイドラインの概要】
- 作成:厚生科学研究費補助金(21世紀型医療開拓推進研究事業:EBM分野)
- 作成時期:平成14年(2002)3月
- 「エビデンスのレベル」分類についてはIからVIまで分類されている(表1)。
また勧告については、エビデンスのレベル、エビデンスの数と結論のばらつき、臨床的有効性、臨床上の適用性、害やコストに関するエビデンスなどから総合的に判定されている(表2)。 - 診療ガイドラインは診療の60~90%に適合するように作成されており、診療をリードするものでも支配するものでもなく、ガイドするものであるとされている。
表1「エビデンスのレベル」分類 |
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表2 勧告のグレード |
A.行うよう強く勧められる B.行うよう勧められる C.行うか行わないか勧められるだけの根拠が明確でない D.行わないよう勧められる |
- ■ 危険因子
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- 喫煙(レベルIV)。
- 紫外線:紫外線に関してはエビデンスレベルIV以上の報告が見当たらない。
- 抗酸化剤:白内障のリスクを下げる作用があるとする報告が多い。βカロチンが血清中に低いこともリスクとされているが、ビタミンC、E、β-カロチンの大量投与での7年間の比較試験では白内障阻止効果は認められなかった(レベルII)。
- 薬物:ステロイド薬はその使用量、使用期間、50歳以上、糖尿病の合併などと関係して高いリスクである(レベルIV)。
- ■ 手術適応と視機能
- 白内障手術適応は遠見視力だけで手術適応は決められない(勧告グレードB)。視力が良くてもコントラスト感度の低下やグレア難視度の進行、そして視野にも影響がでることから水晶体混濁の観察のみならず、視機能の評価が手術適応には欠かせない(勧告グレードB)。
- ■ 手術
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- 麻酔方法:全身麻酔と局所麻酔がある。患者の状態と術者の技能レベルに適した麻酔方法の選択が必要である(勧告グレードB)。
手術方法:術前の消毒剤・抗菌剤使用には有用なエビデンスが得られていない。ほとんどの白内障術者は術前の消毒剤・抗菌剤の使用(レベルIII)を行っている。
白内障手術は眼局所および全身に障害がなければ約95%の症例で0.5以上の視力を得る(レベルII)ことや、眼内レンズ挿入眼は白内障術後に眼鏡装用した症例と比較してQuality of lifeが有意に高い(レベルIII)、などから白内障手術には超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入が推奨されている(勧告グレードA)。切開創は小さい方(無縫合小切開)が術後惹起乱視や炎症が少ない。したがって、小切開創から挿入可能なfoldableの素材を使ったレンズが推奨される(勧告グレードA)。- 術中合併症:後嚢破損 3.1%、眼内炎0.13%、水疱性角膜症0.3%、嚢胞状黄斑浮腫1.5%など実に多くの合併症がある。なかでも眼内炎(眼球内の感染)は重篤な視力障害を残すために厳重な管理が要求される。
- 後発白内障:眼内レンズの形状や材質で後発白内障の発生率が異なる。治療法はNd:YAGレーザーによる後嚢切開が有効である(勧告グレードB)。
- ■ 薬物療法
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- 国内認可されている抗白内障薬:点眼薬の臨床試験にはランダム化比較試験が極めて少ない。ピレノキシンの有効性は症例数の少ないことや混濁変化判定に問題があり、グルタチオンについても同様である(勧告グレードC)。
- その他の薬物:ベンダリン(蛋白変性抑制薬)の有効性は十分に検討されていない。抗酸化物の投与は推奨されていない(勧告グレードD)。
ガイドライン中「白内障治療薬には明らかな科学的根拠がない(勧告グレードC)」とされているが、これは「有効性がない」とは同義ではない。現在、医師が処方している白内障治療薬は、約20年前になるが、当時の判断基準によって再評価を受けており「有効性がある」と判断されている薬物である。白内障治療薬はけっして「無効」ではないということである。使用に際しては正しいインフォームドコンセントを得ることが重要である。抗白内障薬の効果判定基準は客観性に欠け有効性を正しく証明するための再現性や評価方法が不足していた。そのために、今後はランダム化比較試験による大規模な調査が望まれる。