肝臓がん│特定非営利活動法人 標準医療情報センター


  • 病気の標準治療法解説 疾患一覧へ
  • 診療ガイドラインとは

【肝臓がんとは】

 肝臓がん(肝がん)には、肝臓内の細胞から発生する「原発性肝がん」と、肝臓以外の臓器にできたがん細胞が、血管やリンパ管の中を流れて肝臓に到達してできた「転移性肝がん」があります。さらに原発性肝がんは、肝細胞ががん化した「肝細胞がん」と、胆管細胞ががん化した「胆管細胞がん」に分けられます。原発性肝がんの約90%以上が肝細胞がんですので、一般的には「肝がん」というと肝細胞がんのことを指します。
2020年の統計では年間24000人あまりの方が肝臓がんで亡くなっており、年間の死亡者数は2002年ごろより緩やかに減少しています。癌の部位ごとの死亡者数をみると、男性では肺・胃・大腸・膵臓に次いで肝臓は5位で、女性では大腸・肺・膵臓・乳腺・胃について肝臓は6位です。(がん情報サービス2020年統計より)

【病因】

 肝がんの約60%は慢性ウイルス性肝疾患(C型肝炎由来が40‐50%、B型肝炎由来が約15%)といわれています。肝炎ウイルスの持続感染によって、肝臓で慢性の炎症と肝細胞の壊死(死滅)そして再生が長期間に繰り返されるうちに、肝細胞の遺伝子が傷つけられて遺伝子の異常が多く積み重なり、がんが発生すると考えられています。 最近、ウイルス以外の原因の肝硬変からも肝がん発生が増加傾向にあり、全体の30‐40%を占めるようになりました。アルコール性肝硬変、非アルコール性脂肪性肝硬変等が肝がんの危険因子として挙げられています。

【予防】

 肝がんの場合は、肝炎ウイルス感染予防と肝炎ウイルス感染者の肝がん発症予防の2つが重要です。B型肝炎ウイルスはワクチン接種で感染を予防することができます。B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染が分かった場合には、ウイルスを排除したり、増殖を抑えたりする薬を使って治療をします。

【症状】

 肝臓は「沈黙の臓器」といわれており、初期には肝がんの自覚症状はほとんどみられません。進行すると、お腹にしこりを触れる、圧迫感、痛みなどの症状が現れます。がんが破裂して出血が起こることもあります。

【肝細胞がんのサーベイランス】

肝細胞がんをどのようにして早期に発見するか

  肝がんは脂肪肝や肝硬変など慢性的な肝臓の病気を背景に発症することが多いため、高危険群の絞り込みが比較的容易です。高危険群はB型慢性肝炎、C型慢性肝炎、肝硬変です。なかでも、B型肝硬変、C型肝硬変は「超高危険群」に属します。核酸アナログで治療中のB型肝炎や、治療によりウイルスが消えた後のC型肝炎でも肝がん発生のリスクはあります。また、肝がんの根治治療後に再発することもあります。
サーベイランスは、肝がんを小さいうちに発見し治療ができることを目的としています。

高危険群患者のサーベイランス

  6か月に1回、肝がんが発生した場合に血中に現れる腫瘍マーカー(AFP, PIVKA-II)の測定と超音波検査が推奨されます。

超高危険群患者のサーベイランス

局所穿刺療法中の超音波画像(右はCT画像)

肝がんのCT画像(図①)

  3~4か月に1回、腫瘍マーカー(AFP, PIVKA-IIなど)の測定と超音波検査が推奨されます。肝硬変のある方は、造影剤を用いたCT検査またはMRI検査を併用することがあります。

超音波検査で結節性病変(腫瘤の塊)が新たに見つかった場合、ダイナミックCT/ダイナミックMRI検査/Gd-EOB-DTPA 造影MRI、または造影超音波検査を行ってその病変ががんであるかないか、ほかの悪性疾患であるかどうかの鑑別診断を行います。

【肝細胞がんの治療法】

肝がんの多くは肝硬変を背景に発生しますので、がんの進行度と肝予備能(肝機能)を考慮して治療法を選択します。肝がんの治療に関するアルゴリズム(図②、日本肝臓学会 編「肝癌診療ガイドライン2021年版」に基づいて作成)に従い、肝硬変の程度(チャイルド・ピュー分類)・肝外転移・脈管侵襲(がんが肝臓内の血管や胆管に侵入して巻き込んでいる状態)・腫瘍の数・腫瘍の大きさをもとに、最適と思われる治療を求めることになります。

肝表面腫瘤

図②

【治療法の種類】

治療法にはいくつかの種類があります。以下に示します。

①肝切除術
肝切除とは、外科的に肝臓がんを切除する方法です。癌と、その周囲の肝臓組織を含めて切除します。肝がんに対する最も根治的(=完全に治すこと)な治療法です。がんの広がりや個数と、肝機能とを考慮して、手術が可能か決定されます。手術後に肝不全をきたさないよう、肝臓の切除範囲を決めることも重要です。 2021年版肝癌診療ガイドラインでは、脈管侵襲(=血管やリンパ管に癌が広がること)がある場合でも、肝切除の有効性が示されています。

肝切除を選択する場合は、主に肝障害度により肝機能を評価します。肝障害度とは、①腹水の有無、②血清ビリルビン値(mg/dl)、③血清アルブミン値(g/dl)、④ICG R15(%)(緑色のインドシアニングリーン色素を注射して肝臓からの排泄能を調べる検査)、⑤プロトロンビン活性値(%)の5項目から、A、B、Cの3度に分類します。A、B、Cの順に重症となります。
②穿刺局所療法
肝がんに治療用の針をさし焼灼する治療法です。皮膚の上から刺す場合と、開腹手術や腹腔鏡手術のもとで穿刺する場合とがあります。肝がんの大きさや個数には制限があり、3cm以下で3個までの肝がんに対して行われる治療です。
ラジオ波焼灼療法(RFA)とマイクロ波焼灼療法(MWA)とがあります。
局所穿刺療法中の超音波画像(右はCT画像)

局所穿刺療法中の超音波画像(右はCT画像)(図③)

③肝動脈化学塞栓療法(TACE)
肝動脈化学塞栓療法時の血管造影画像

肝動脈化学塞栓療法時の血管造影画像(図④)

細いカテーテルを足の付け根の大腿動脈から大動脈を経て肝動脈に挿入し、肝動脈からさらに枝別れしてがんの部位に行く細い動脈枝を塞栓物質(詰め物)で塞栓(閉塞)して血流を遮断します。がん細胞に栄養を供給する血管を塞ぎ、がんを死滅させる治療法です。 治療効果を高め、副作用を減らすためには、できるだけがんの近くで薬を注入することが重要となります。塞栓物質にはいくつか種類があり、油性造影剤(リピオドール)と抗がん剤の混合液(リピオドールエマルジョン)を注入後、塞栓物質(多孔性ゼラチン粒)を注入する方法が従来型のTACEです。ほかに、100~500㎛ほどのビーズに薬剤を染み込ませて血管を塞栓する方法(DEB-TACE)があります。
④薬物療法
内服、点滴による治療が主ですが、肝動注化学療法*もあります。 2009年にソラフェニブという薬が肝がんに対して使えるようになり、その後、肝がんに対する薬物療法は著しく進歩しました。現在(2021年版肝癌診療ガイドライン発行時)6種類の薬が保険で受けられるようになりました。使える薬の種類が増えると、1つの薬で効果が得られなかった場合も、ほかの薬に変更して治療を続けていくことができる可能性が高くなります。最初に行われる一次治療では、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用がまず選択され、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法が行えない場合に、ソラフェニブかレンバチニブを用いた治療が選択されます。

*肝動注化学療法とは 経皮的に鎖骨下動脈や大腿動脈を穿刺して肝動脈に細いカテーテルを挿入し、薬剤注入部と連結したカテーテルを皮下に埋め込み留置する装置(リザーバーという)を通して、がんに高濃度の抗がん剤を直接投与する方法です。
⑤肝移植
脳死肝移植と生体部分肝移植があります。肝臓をすべて取り出して、ドナー(臓器提供者)からの肝臓を移植する治療法で、日本では、主に近親者から肝臓の一部を提供してもらう生体肝移植が行われています。なお近年は、脳死後のドナーから肝臓を提供してもらう脳死肝移植も数が増えています。 肝細胞がんに対する肝移植は、ミラノ基準、または5-5-500基準を満たす場合に行うことがあります。ミラノ基準とは、(I)脈管への広がり・肝臓以外への転移がない、(II)がんが1つなら5cm以下、(III)がんが複数なら3個以下で3cm以内、という基準です。

【肝がんの進行度】

肝がんの進行度は一般にステージIからステージIVの段階で表します。ステージ(病期)の分類は、日本の「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約(日本肝癌研究会編)」と、国際的に使われている「TNM悪性腫瘍の分類(UICC)」との2種類があります。以下に日本の病期分類を示します。
(日本肝癌研究会編.臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版より)

ステージI ①腫瘍数1個
②腫瘍径2cm以下
③脈管侵襲(-)、の3項目をすべて満たす
リンパ節転移(-) 遠隔転移(-)
ステージII ①腫瘍数1個
②腫瘍径2cm以下
③脈管侵襲(-)、の3項目のうち2項目合致
リンパ節転移(-) 遠隔転移(-)
ステージIII ①腫瘍数1個
②腫瘍径2cm以下
③脈管侵襲(-)の3項目のうち1項目合致
リンパ節転移(-) 遠隔転移(-)
ステージIVA ①腫瘍数複数
②腫瘍径2cm超
③脈管侵襲(+)
リンパ節転移(-) 遠隔転移(-)
ステージIVB 大きさ、個数、脈管侵襲にかかわらず リンパ節転移(-)または(+) 遠隔転移(+)
ページトップへ