肝硬変│特定非営利活動法人 標準医療情報センター


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【肝硬変とは】

肝臓

肝臓に慢性の障害や炎症が続くと、肝臓の細胞(肝細胞)が変性(性質が変わること)や死滅(壊死)して数が少なくなります。障害に打ち勝って残った細胞や再生した肝細胞の周りを線維性の組織が取り囲み「再生結節」という構造を形成します。その結果、全体として肝臓は硬く小さくなっていきます。ほとんどの肝臓の組織が線維と再生結節で置き換わった状態が肝硬変です。肝疾患の終末像としての肝硬変に至ります。
肝細胞は再生する能力が大きく、 残った細胞が増えて死滅した細胞群の分まで働く(機能する)ようになります。肝機能がよく保たれ、症状がほとんどない時期を「代償性肝硬変」といいます。これに対して肝細胞の予備力が限界を超えて肝機能が更に悪化し、さまざまな症状(肝性脳症、黄疸、浮腫、腹水、出血傾向など)が現れる段階を「非代償性肝硬変」といいます。そして、ついには肝不全状態に至ります。

【原因】

C型肝炎ウイルスによるC型肝硬変 48.2%、B型肝炎ウイルスによるB型肝硬変 11.5%、アルコール性肝硬変 19.9%、非アルコール性脂肪肝炎(NASH:ナッシュ)による肝硬変 6.3%、その他(自己免疫性など)約6%といわれており、原因不明の肝硬変も約6%見られます。最近はC型肝炎ウイルスが減少し、アルコールやNASHによる肝硬変が増えています。2018年肝硬変成因別調査より抜粋しています。

【診断】

症状
皮膚のくも状血管拡張(首や前胸部、頬に赤い斑点ができます)。手掌紅斑(手のひらが赤くなります)。腹水(お腹に水が溜まって膨満します)。黄疸(白目や皮膚が黄色くなります)。羽ばたき振戦(肝性脳症の症状で手が震えます)。ほかにもこむら返りや女性化乳房(男性でも乳房が大きくなります)などの症状が現れます。
血液検査
総ビリルビン値の上昇(黄疸が現れる)。肝細胞の蛋白合成能力が低下して血清アルブミン・コリンエステラーゼ値の低下。プロトロンビン時間延長(血が固まるまでの時間が長くなります)。血小板減少(肝硬変では10万/μL以下に低下します)。アンモニア値の上昇(肝性脳症の原因になります)。これらの異常が現れます。
画像検査
・腹部超音波、腹部CTスキャン(画像だけで肝硬変の診断はできませんが、肝臓の表面の凹凸、脾臓の大きさ、腹水、シャントと呼ばれる異常血管の発達を調べることができます。また造影剤を使った検査では肝腫瘍について調べることもできます)
・エラストグラフィー(超音波装置やMRIを用いて肝臓の線維化を見ることができます)
線維化マーカー検査
血液検査で血小板数、M2BPGi値(最近保険で検査が可能となった新しい線維化のマーカーです)、ヒアルロン酸値、IV型コラーゲン値を調べます。また、いくつかの検査項目を合わせて線維化を評価します(FIB-4:血小板値、年齢、ASTとALT値から計算します)。
組織検査(肝生検)
肝硬変

肝硬変の腹腔鏡写真

超音波や腹腔鏡検査(お腹の中に腹腔鏡を挿入して直接肝臓を観察しながら行う検査)で確認しながら肝臓に針を刺し組織を採取します。顕微鏡で肝硬変かどうかを診断します。

【肝予備能の診断】

Child-Pugh(チャイルドピュー)分類は、肝硬変の程度と予後を予測する指標で、普段の診療で頻繁に用いられます。表の5項目の合計点数で判定し、5~6点をA、7~9点をB、10~15点をCと分類します。

Child-Pugh分類
ポイント 1点 2点 3点
肝性脳症 なし 軽度(Ⅰ・Ⅱ) 昏睡(Ⅲ以上)
腹水 なし 軽度 中程度以上
血清ビリルビン(mg/dl) <2.0 2.0~3.0 >3.0
血清アルブミン(g/dl) >3.5 2.8~3.5 <2.8
プロトロンビン活性値(%)(INR) >70, <1.7 40~70, 1.7~2.3 <40, >2.3

【肝硬変の治療】

肝硬変の原因となった疾患に対する治療を行うことで、線維化の進行を遅らせることができる場合もあります。

  • B型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス療法
  • C型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス療法
  • アルコール性肝硬変:禁酒をすることで予後の改善が期待できます。
  • 肝移植:非代償性肝硬変で、一般的な治療で改善しない場合に治療法の一つとなります。健康な方あるいは脳死と判定された方から肝臓をもらい移植します。
  • 肝庇護療法:線維化の進行を遅らせる治療としてかつては行われていましたが、現在はエビデンスがないとされています。
  • 肝癌のスクリーニング:肝硬変患者の肝癌発癌率は高く、抗ウイルス療法でウイルスが消えた場合でも、腫瘍マーカーと超音波検査などの画像診断を併用し、3~6ヵ月ごとの定期的な検査が望ましいとされています。

【肝硬変合併症とその治療】

食道胃静脈瘤
上部消化管内視鏡画像:食道静脈瘤

上部消化管内視鏡画像:食道静脈瘤

肝硬変が進行するにつれて門脈圧が亢進し、胃・食道静脈圧も高まります。その結果静脈瘤(静脈が数珠状に膨らむ)が形成されます。静脈瘤が高度になると破裂して吐血・下血が起こります。
治療: 内視鏡を用いて静脈瘤にゴムバンドをかける(血管を結紮する)方法か、硬化剤を静脈瘤内に注入し固めてしまう方法があります。お薬を使って門脈圧を下げる方法もあります。
腹水
血液中のアルブミンというタンパク質が低下し、門脈圧が高くなるために、血管から水分が漏れ出てお腹の中にたまったものが腹水です。大量にたまるとお腹が大きく張り出し、息が苦しくなり、食事が十分とれなくなることもあります。
治療: 減塩食(食欲を損なわない程度に1日5~7gの塩分を控えた食事をします)。利尿剤の服用。アルブミンの点滴。腹水穿刺排液(お腹に針をさして腹水を抜きます)。腹水濃縮再静注療法(CART:カート。抜いた腹水をパックに貯めた後、血液浄化装置を使ってアルブミンなどのタンパク質が濃縮した腹水に処理し、点滴で体に戻します)。
肝性脳症
腸管で産生されたアンモニア等の有害物質が、肝機能低下のため代謝されずに蓄積されて脳に達し、そのため意識障害や精神神経症状を起こします。
治療: ラクツロース(便通をよくして腸内細菌によって作られるアンモニアを下げます)。アミノ酸の補充。難吸収性抗菌薬の服用(体に吸収されず腸内細菌だけに作用する抗菌薬で、アンモニアの発生を抑えます)。ほかにも、カルニチンや亜鉛欠乏がある場合に亜鉛製剤などを使って治療することがあります。
特発性細菌性腹膜炎
腹水の中に細菌感染を起こす病気で、熱がでたり、お腹が痛くなったりします。治療が遅れると肝不全に進行することがあります。診断のためには腹水を穿刺し、腹水中の白血球の数を調べます。また腹水を培養の検査へ出して調べます。
治療: 抗菌薬で治療します。


肝硬変診療ガイドライン2020の内容を参考に作成しています。
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