肺がん│特定非営利活動法人 標準医療情報センター


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【肺がんとは?そして、その特徴は?】

肺

 肺(気管支から肺)に発生する悪性腫瘍のことを肺がんと呼びます。肺がんには、気管支や肺の上皮などから発生する肺がんとその他の肺組織(結合組織・筋肉・脂肪など)から発生する肉腫に大きく分けられますが、そのほとんどが“肺がん”で、肺の肉腫は極めてまれです。
肺がんも他臓器のがんと同じように周囲の臓器に直接浸潤したり、肺内のリンパ管や血管に浸潤してリンパ節転移や他の遠隔臓器(脳・肺・肝臓・骨・副腎など)に血行性転移をおこします。

【肺がんの原因】

 がんは、現在では遺伝子の異常による病気と考えられており、肺がんにおいてもいくつかの遺伝子異常が報告されています。しかしながら、がん発生のメカニズムはまだ十分には解明されていません。肺がんにおいては、喫煙がその発生に最も密接に関わっている危険因子です。
喫煙  タバコの煙の中には多くの発がん物質が含まれています。喫煙指数(1日のタバコの本数×喫煙年数)が600以上(たとえば1日20本を30年間)の人が重喫煙者であり非喫煙者に比べて肺がんの高危険群となります。また、喫煙開始年齢が早いとさらに危険率が増加し、男性に比べて女性のほうが喫煙による影響が高いこともわかっています。本人がタバコを吸わなくても、周囲に喫煙している人がいるとその影響(副流煙)が問題となります。
その他、特殊な肺がんの原因として、アスベストやクロムへの曝露(ばくろ)などがありますが、特殊な職業に携わった人のかかる肺がん(職業性肺がん)であり、一般の方が心配する必要はありません。

【肺がんの検査】

 肺がん治療に必要な検査の目的は、大きく分けて3つあります。

  1. 肺がんの確定診断
  2. 肺がんの進行度(病期)診断
  3. 患者さんの全身機能検査

1. 肺がんの確定診断(肺がんと診断するための検査)

 胸部X線写真における異常陰影の精密検査として、CT検査を施行します。CT画像所見の中には肺がんに特徴的な所見もありますが、画像診断は確定診断ではありません。肺がんと確定診断するためには、がん細胞を確認する必要があります。その方法として、喀痰(かくたん)細胞診、気管支鏡検査、CTガイド下肺生検、開胸肺生検などの診断方法があります。

● 喀痰細胞診
 喫煙者で血痰や咳などの呼吸器症状が持続する患者さんには、必須の検査です。肺門(はいもん)型(太い気管支に発生するタイプ)の早期肺がんは、胸部X線写真やCT検査では異常所見のないことが多く、喀痰細胞診が早期発見の手段となり得ます。さらに、気管支鏡検査による病変部位の検索が必要となります。
● 気管支鏡検査
 気管支鏡検査は、胃ファイバー検査と同じような検査です。喉に局所麻酔を行い、気管から両側の肺の気管支内にファイバーを挿入します。可視範囲内の観察と肺野(はいや)型(太い気管支から離れた肺に発生するタイプ)肺がんなどの肺野病変の確定診断が主な目的となります。胸部X線で確認できない小さいがんや淡いがんでは診断が得られない可能性があります。一般的には外来で行う検査です。
● CTガイド下肺生検
 CTガイド下肺生検は、X線透視で確認しにくい病変や気管支鏡検査で確定診断に至らなかった病変などが対象となります。CT検査を行い病変部の位置を確認し、患者さんの短時間息止めの間に経皮的に生検針を刺入し、その針の先端が腫瘍内であることをCT検査で確認してから、組織を採取します。合併症として気胸(ききょう=肺がしぼむ)、出血、空気塞栓(くうきそくせん)などがあり入院して行う検査になります。
● 開胸肺生検
 全身麻酔の手術により、肺の部分切除を行い組織診断する方法です。その一手段として胸腔鏡(きょうくうきょう)という技術があり、患者さんの負担の少ない方法で診断がつくようになりました。

2. 肺がんの進行度診断(全身への広がりを調べる検査)

 肺がんにおける血行性転移のおもな標的臓器は、脳・肺・肝臓・骨・副腎であり、これらの部位が検査の対象となります。

● 脳・・・・・・脳MRI検査
● 肺・・・・・・胸部CT検査
● 肝臓と副腎・・腹部CT検査と腹部超音波検査
● 骨・・・・・・骨シンチグラフィ検査

などが一般的に行われています。最近では、全身のPET/CT検査も施行されるようになり、治療前のリンパ節転移の有無や遠隔転移の評価として使用されています。リンパ節転移が疑われた場合には、可能であれば超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)にて、治療開始前に病理学的診断を行うことが推奨されています。

3. 患者さんの全身機能検査(患者さんの元気さを調べる検査)

 肺がんに対する治療が安全に遂行できるかどうかを判定するためには、患者さん自身の元気さを評価する必要があります。肺機能検査血液ガス分析による肺機能の評価、歩行負荷前後の心電図による心臓の虚血性変化の有無や不整脈のチェック、血液・尿検査から肝臓・腎臓の機能評価を行い、その他の合併症(糖尿病・動脈硬化症に伴う合併症・呼吸器合併症、下肢静脈瘤など)の有無やその程度の評価も必要となります。また、患者さんの元気さの評価としては、これらの各臓器の機能評価や合併症のチェックのほかに日常生活における活動度の評価(パフォーマン・ステータス=PS:Performance Status)も重要です。

【肺がんの治療】

【選択できる治療方法・・・十分な説明と同意が大切】

 肺がんの進行度に応じた標準的な治療方法やその他に考えられる治療方法に関する説明を聞いて、期待できる治癒率などのプラス面と合併症・副作用などのマイナス面の両面を理解して、最終的には自分の意志で治療方法を選択する時代になってきました。
患者さんが選択できる治療方法は以下の7つに集約されます。

  1. 外科療法・・・・・局所治療
  2. 放射線療法・・・・局所治療
  3. 薬物療法・・・・・全身治療(化学療法、分子標的治療、免疫療法)
  4. 民間療法・・・・・(専門機関へ)
  5. その他(レーザー治療・遺伝子治療など)・・・(専門機関へ)
  6. 対症療法(BSC=ベスト・サポーティブ・ケア)・・・・・肺がんにより出現した症状を緩和させる医療
  7. 経過観察・・・・・何もしないということ

 治療方法を選択するにあたっては、考えられるあらゆる治療方法に関する十分な説明を受け、それらの内容を理解して同意できたかどうか、いわゆる“インフォームド・コンセント(IC=Informed Consent)”が大切なポイントとなります。

【肺がん診療ガイドラインの推奨する治療方法】

 肺がん診療ガイドラインでは、それぞれの進行度(病期)で推奨される治療方法が述べられています。各病期別の大まかな治療方針は以下の通りです。

病  期 治療方針
I期 肺内の病変のみ 外科療法(+IB期は術後化学療法を加える?)
II期 ・同側の肺内や気管支周囲のリンパ節に転移
・リンパ節転移はないが胸壁や横隔膜に浸潤しているもの
外科療法(+術後化学療法を加える?)
III期 ・縦隔リンパ節に転移
・縦隔にある臓器(食道/心臓/大動脈/大静脈/胸椎)に浸潤
・肺胸膜に浸潤し胸腔内に小さな転移巣を形成
・胸水にがん細胞が浮遊
・肺がんと反対側の縦隔や首のリンパ節に転移
化学療法(+放射線療法)→外科療法
化学療法+放射線療法
IV期 肺がんの存在する肺葉と別の肺葉や脳、肝臓、骨、副腎などの臓器に転移 化学療法(+放射線療法)

 それぞれの臨床病期に応じて、外科療法・放射線療法・薬物療法を単独あるいはこれらの治療を組み合わせた治療(集学的治療)が行われます。

1. 外科療法

 外科手術の適応は、

  1. がんの進行度
  2. 術後の生活の質(QOL=quality of life)が保たれるかどうか
  3. 手術の危険性とおこりうる術後合併症の可能性
  4. 外科療法以外の治療方法に関する説明を受けているかどうか

といったことを考慮・検討の上、決定されます。手術術式は、標準手術を基本として拡大手術と縮小手術の3つに分けられます。

● 標準手術
 肺がんの標準手術は、原発巣の存在する肺葉(はいよう)切除(あるいは片肺全摘)とその領域のリンパ節郭清(かくせい)(リンパ節をまとめて摘出することをリンパ節郭清と言います)が基本となっています。また、気管や太い気管支に病変が存在する場合、切除したあとに気管とあるいは気管支同士を吻合する手術を気管・気管支形成術と言います。特殊な形成術でなければ、この術式も現在では標準手術に含まれています。
● 拡大手術
 肺がんの標準手術は、原発巣(げんぱつそう)の存在する肺葉切除(あるいは片肺全摘)とその領域のリンパ節郭清が基本となっています。肺がんが直接に浸潤した周囲臓器の合併切除を伴う手術や、標準的なリンパ節郭清の範囲より広範囲のリンパ節郭清を行う手術などをまとめて拡大手術と言います。
合併切除する周囲臓器が胸壁・心膜・上大静脈・左心房などの肺がんの切除成績は比較的良好ですが、横隔膜・大動脈・椎体(ついたい)・食道などの臓器を合併切除した手術成績は不良であり、それらの手術適応は慎重でなくてはいけません。また、リンパ節転移を伴っている肺がんや複数の臓器に浸潤している肺がんの手術成績は不良ですから、それらの手術適応はさらに慎重でなければなりません。
● 縮小手術
 肺の切除する範囲が肺葉切除より小さな肺切除(区域切除や部分切除)や、標準的なリンパ節郭清の範囲より狭い範囲を郭清する手術などを縮小手術と言います。
標準手術に耐えられない高齢者や心・肺機能に制約のある患者さんには、残存する肺機能や手術侵襲を考慮して、縮小手術が選択されます。また、CT検診の普及により、CT画像でしか認識できないような早期の肺がんが発見されるようになってきました。それらの肺がんは転移している可能性が低いことから、積極的に縮小手術が検討されるようになってきています。
● 低侵襲アプローチ
 従来、標準手術を行う際は、20cm前後の皮膚切開を置いて肋骨の後方を切離する開胸術で行われていました。近年では、創部を小さくする胸腔鏡手術やロボット支援下手術が行われるようになっています。創部が小さいと患者さんの術後創痛が軽く、回復も早いことがわかっています。標準手術を行う創部

2. 放射線療法

● 根治的放射線治療
放射線治療 全身的なリスクのために手術が出来ないか、あるいは手術を拒否されたI期とII期の非小細胞肺がんの患者さんには、根治的放射線単独治療の適応があります。放射線治療の通常照射は、1日1回2Gy(グレイ=放射線線量)を週5回照射する通常分割照射という方法で総線量60〜65Gy照射(6〜6.5週間で)します。近年、放射線治療効果を高める方法として、CTシミュレーションによる三次元治療計画がたてられるようになり、病巣周囲の正常肺組織への影響を減らし、病巣に大量の線量を照射(定位放射線照射:SRTあるいはSRI)することが可能となってきました。
また、重粒子線や陽子線などを用いた粒子線治療が限られた施設で行われるようになっています。これらの治療方法は、がんのある深さで最大のエネルギーを発揮できるように設定されており周囲の組織への影響を抑え、がん病巣を集中的に攻撃することができます。現在は限られた施設でのみ先進医療(治療の一部に健康保険が使えるが粒子線治療の費用は全額負担)として行われています。
 手術不能な局所進行肺がんに対しては、放射線療法と化学療法の併用が標準治療ですが、化学療法が行えないような症例には、放射線療法が単独で行われます。
● 術前の放射線治療(術前照射)
 非小細胞肺がんで肺尖(はいせん)部(肺の先端)から胸壁に浸潤した肺がんなどの場合には、手術前に化学放射線治療を施行した後に手術を行う集学的治療が推奨されています。
● 術後の放射線治療(術後照射)
 「肺癌診療ガイドライン」上は、術後病理病期I-II期完全切除例に対する術後放射線療法は推奨されていません。また、手術後に縦隔(じゅうかく)リンパ節転移の判明したIII期完全切除例に対する術後放射線療法は考慮してもよいが、行う根拠がないとされています。
● 予防的全脳照射
 限局型小細胞肺がんで胸腔内の病変が初期治療でコントロールされた患者さんには、予防的に全脳照射を行うことが強く勧められています。

3. 薬物療法(化学療法、分子標的治療、免疫療法)

 90年代に開発されたいわゆる新規の抗がん剤を用いても、肺がんを根治させることはかなり困難な状況です。従って、肺がん治療における化学療法の目的は現在のところ、肺がんの進行を抑えて質のよい生活(QOL)をできるだけ長く持続してもらうことです。IV期の非小細胞肺がんに対するシスプラチンを含む抗がん剤治療は対症療法(BSC)より生存期間を延長しQOLも改善することがわかっております。このことは、高齢者の患者さんであっても全身状態が良好であれば、同様に生存期間の延長とQOLの改善が得られると考えられています。しかし、近年ではがんのバイオマーカーを検索し、それを指標にしてがんの治療薬を選択する個別化治療が行われています。

● 標準的な化学療法(抗がん剤治療)
 非小細胞肺がんに対する化学療法は、シスプラチンもしくはカルボプラチンなどのプラチナ製剤と呼ばれる抗がん剤に別の種類の抗がん剤(パクリタキセル・ドセタキセル・塩酸イリノテカン・ビノレルビン・ゲムシタビンなど)のどれか1つを組み合わせた2剤併用療法であり、これを3〜4週間隔で4コース繰り返して行うことが標準治療となっています。
● 分子標的治療
 分子標的治療とは、がん細胞に特異性のある標的分子のみに作用することで、正常細胞への悪影響をできるだけ少なくして、がん細胞だけに効果を示すように開発された薬剤のことをいいます。
 近年、非小細胞肺がんに対する薬物療法は、扁平(へんぺい)上皮がんと非扁平上皮がんに大別して行われています。扁平上皮がんでは一次治療(ファーストライン)としてプラチナ併用療法が行われます。一方で、非扁平上皮がんに対しては、ドライバー遺伝子変異/転座陽性の検査(EGFRやALK)結果が治療方針の決定に重要です。EGFR遺伝子変異陽性、ALK融合遺伝子陽性の場合は、分子標的薬(キナーゼ阻害剤)が一次治療として使用されます。
分子標的薬は、2002年7月世界に先駆けて日本ではじめて「手術不能又は再発非小細胞肺がん」を適応として承認されたイレッサをはじめ多数開発されています。吐き気、脱毛、血球減少等の従来の抗がん剤で認められた副作用が少なく、また、劇的にその効果を認める患者さんがみられることが示されました。しかし、間質性肺炎など特有の副作用も報告されており、使用に慣れた呼吸器腫瘍内科医のもとで治療を受けることをお勧めします。
● 免疫療法
 がんの免疫療法は手術、放射線治療、抗がん剤治療に次ぐ、第4の治療法をして長く注目されてきました。しかし、科学的根拠の低い免疫治療が入院施設のないクリニックで高額な治療費で行われていました。最近では、がん細胞が自己の増殖のために免疫に対抗して発現しているタンパク質などを邪魔(阻害)することで免疫を活性化し腫瘍を攻撃する、免疫チェックポイント阻害剤が開発されました。患者さんが持つ免疫を活性化することで効果が長期間認められるなどの特徴があります。
 一方で、免疫が活性化することで自分の体を攻撃する自己免疫反応(間質性肺炎、甲状腺機能異常、腸炎、下垂体機能低下など)の副作用が存在するため、その使用に慣れた呼吸器腫瘍内科医のいる施設での治療をお勧めします。
● 小細胞肺がんに対する化学療法
 小細胞肺がんは非小細胞肺がんに比べて進行が早く、潜在的には遠隔転移を伴う全身の疾患と考える必要があります。
臨床病期I-IIA期の小細胞がんに対しては外科治療+術後化学療法が推奨されています。全身状態のよい(Performance Status; PS0-1)限局型小細胞肺がんに対しては、化学放射線療法が勧められています。使用する抗がん剤はシスプラチン+エトポシドなどであり、これらの併用療法を3〜4週ごとに4コース行うことが標準的な治療方法です。
限局性小細胞肺がんの初回治療で完全緩解が得られた症例に対しては、脳転移再発を防ぐ目的で予防的全脳照射が推奨されています。PS0-1の進展型小細胞肺がんに対しては一次治療としてシスプラチン+イリノテカン、またはシスプラチン+エトポシドが使用されます。
●術後の抗がん剤治療
 2cm以上の腫瘍径の術後病期IA、IB、IIA期で完全切除された腺がんに対して、テガフール・ウラシル配合剤(商品名;UFT)は、5年生存割合を上乗せするために行うように推奨されています。ただし、すりガラスが主体の病変の場合は、手術単独でも治療効果が高く、UFTを使用するがどうかは担当医とよく相談の上で決定してください。
 術後病期II-IIIA期完全切除例に対しては、シスプラチン併用の術後化学療法が推奨されています。UFTは経口薬なので通院での治療(2年間内服)になりますが、シスプラチン併用療法は入院での治療になり、4コース行うことが推奨されています。

(2020.03.19 更新)

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