脳卒中│特定非営利活動法人 標準医療情報センター


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 脳卒中は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血があります。以前は国民病といわれ、日本の死因の第一位を占めていましたが、2018年の統計では第4位の死亡原因となっています。降圧剤の普及による高血圧の治療、塩分の制限等が効果を発揮したものと考えられています。脳卒中による死亡者は減っていますが、高齢者の脳梗塞発症率は依然として高く、寝たきりになる原因の40%が脳梗塞といわれています。
 また脳のMRI検査や脳ドックで症状のない無症候性脳梗塞や未破裂脳動脈瘤が見つかることが多く、脳卒中の危険因子となります。普段の生活でも高血圧、糖尿病、喫煙、飲酒等脳卒中の危険因子が潜んでいます。
 脳卒中は予防することが最も大切です。『脳卒中治療ガイドライン』(2015)から予防に関するエビデンスでグレードA(行うよう強く勧められる)とグレードB(行うよう勧められる)の一部を掲載します。


【脳卒中の予防】

  1. 高血圧患者では降圧療法を行うよう強く勧められる(グレードA)。
  2. 降圧目標として140/90未満が強く勧められる(グレードA)。
  3. 降圧薬の選択としてはカルシウム拮抗薬、ACE阻害剤、ARB薬等が強く勧められる(グレードA)。
  4. II型糖尿病患者では血圧の厳格な管理が強く勧められる(グレードA)。
  5. II型糖尿病患者にはスタチンの投与による脂質管理が強く勧められる(グレードA)。
  6. 高脂血症患者にはLDLコレステロールをターゲットとしたスタチンの投与が強く勧められる(グレードA)。

 II型糖尿病とは、成人に発症する一般に「糖尿病」と言われる病気です。糖尿病の人は細い血管が障害されて目が見えなくなったり、腎臓が悪くなって透析になったり、足が腐ってしまったりします。血糖値を下げることで細小血管症は減少できますが、大血管症である脳梗塞は減らせません。脳梗塞を減らすためには血糖値だけではなく、血圧、脂質の厳重な管理が必要です。
 高脂血症はコレステロールや中性脂肪が高く、動脈硬化になりやすい病気です。高脂血症の人には、スタチンというコレステロールや中性脂肪を減らす薬が脳卒中の予防に効果的であるということです。スタチンにはいろいろな薬がありますが、副作用として横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)といって筋肉が痛くなったり、尿が赤くなったり、腎臓が悪くなる人がいますから、飲みだして2〜3週間で1回血液の検査をしてもらいましょう。それでなんでもなければ飲み続けても大丈夫です。
 心房細動(しんぼうさいどう)は脳梗塞の危険因子であり、脳梗塞発症率は心房細動のない人の2〜7倍になります。特に80歳以上の高齢者の脳梗塞は心房細動による心源性脳塞栓が最も多いと報告されています(小林祥泰編:脳卒中データベース 2015、中山書店、東京 2015)。

《心房細動がある時の脳梗塞予防に関して》

  1. 脳卒中や一過性脳虚血発作、脳卒中危険因子を合併した非弁膜症性心房細動患者(NVAF)にはワーファリンによる抗凝固療法の実施が強く勧められる(グレードA)。
  2. ワーファリン療法ではINRが2〜3が強く勧められる(グレードA)が、70歳以上の患者では1.6〜2.6にとどめることが勧められる(グレードB)

 2011年にNOAC(新規経口抗凝固薬)と総称される、直接トロンビン阻害薬や、第Xa因子阻害薬が開発され、市販されるようになりました。NOACのNVAF患者に対する脳塞栓発症予防効果は、ワルファリンと比較して同等かそれ以上であり、頭蓋内出血はワルファリンよりも大幅に低下することが示されています。今後NOACの使用が推奨されるようになる可能性が高いと考えられます。

  1. 喫煙は脳梗塞、くも膜下出血の危険因子であり、喫煙者には禁煙が強く勧められる(グレードA)。
  2. 脳卒中の予防には大量の飲酒を避けるよう強く勧められる(グレードA)。

 お酒とタバコはいつも健康に悪いと言われています。タバコは脳梗塞の危険因子です。脳梗塞では少量の飲酒は危険率を下げますが、大量の飲酒は脳梗塞でも脳出血でも危険因子です。タバコはやめて、お酒はほどほどに。

  1. 慢性腎臓病は脳卒中の予知因子の一つであり、生活習慣の改善と血圧の管理が強く勧められる(グレードA)。

 慢性腎臓病では心血管疾患の死亡率が高いことが明らかになっています。心不全、脳梗塞の発症率も高いので注意が必要です。

  1. メタボリックシンドロームは脳梗塞の危険因子であり、体重減量、運動、食事による生活習慣の改善と投薬による管理が推奨される(グレードB)。

 メタボリックシンドロームは腹囲が男性で85cm以上、女性で90cm以上。加えて以下の項目が2項目以上。①高中性脂肪血症(150以上)または低HDLコレステロール血症(善玉コレステロール40以下)、②血圧は上が130以上または下が85以上、③空腹時血糖110以上。メタボリックシンドロームは米国では心筋梗塞、脳卒中の独立した危険因子です。日本の調査でも、メタボリックシンドロームを持つ日本人は脳梗塞の発症が男性で2倍、女性で1.5倍になるという報告があります。


【脳卒中のリハビリテーション】

リハビリテーション

2004年のガイドラインと2009年のガイドラインを比べると、脳卒中のリハビリテーションに関する項目が随分増えており、その傾向は2015年のガイドラインでも同様です。それだけリハビリテーションが重要だと認識されてきたのだと思います。日本でも2000年に回復期リハビリテーション病棟が創設され、2019年3月時点で8.6万床を超えました。また急性期では早期にリハビリを開始すること、急性期・回復期リハビリでの訓練量や頻度を増やすことが良いと勧められています。
 ここでは『脳卒中治療ガイドライン』(2015)から脳卒中のリハビリテーションに関するエビデンスで、グレードA(行うよう強く勧められる)とグレードB(行うよう勧められる)の一部を掲載します。

リハビリテーション リハビリテーション

急性期

  1. 不動・廃用症候群を予防し、早期のADL(日常生活動作)向上と社会復帰を図るために、十分なリスク管理のもとにできるだけ発症後早期から積極的なリハビリを行うことが強く勧められる(グレードA)。
  2. 脳卒中ユニット、脳卒中リハビリテーションユニットなどの組織化された場で、リハビリテーションチームによる集中的なリハビリテーションを行い、早期の退院に向けた積極的な指導を行うことが強く勧められる(グレードA)。

回復期

  1. 移動、セルフケア、嚥下、コミュニケーション、認知などの複数領域に障害が残存した例では急性期リハビリテーションに引き続き、より専門的かつ集中的に行う回復期リハビリテーションを実施することが勧められる(グレードB)。
  2. 転帰予測による目標の設定、適切なリハビリテーションプログラムの立案、必要な入院期間の設定などを行い、リハビリテーションチームにより包括的にアプローチすることが進められる(グレードB)。

注:日本では脳卒中発症後2か月以内(2020年の診療報酬では2か月以内という縛りがなくなりました)に、回復期リハビリテーション病棟で集中的リハビリテーションを実施します。この制度は日本独自の制度ですので、日本以外の国際的文献はほとんどありません。回復期リハビリテーション病棟での成果は、主に「回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する調査報告書」を参照してください。

維持期

  1. 回復期リハビリ終了後の慢性期脳卒中患者に対して、筋力、体力、歩行能力などを維持、向上させることが強く勧められる(グレードA)。
  2. そのために訪問リハビリテーションや外来ハビリテーション、地域ハビリテーションについての適応を考慮するよう強く勧められる(グレードA)。

 維持期のリハビリテーションの重要性が認識され、2009年と比較しグレードBからグレードAへ、エビデンスが高くなっています。

  1. 患者・家族に対し、現在の患者の状態や治療。再発予防を含めた脳卒中に関する知識、障害をもってからのライフスタイル、リハビリテーションの内容、介護方法やホームプログラム、利用可能な福祉資源などについて、早期からチームにより、患者・家族の状況に合わせた情報提供に加えて、教育を行うことが勧められる(グレードB)

《その他リハビリに関するグレードA(強く勧められる)項目》

  1. 脳卒中後遺症に対しては、機能障害及び能力低下の回復を促進するために早期から、積極的にリハビリテーションを行うことが強く勧められる(グレードA)。
  2. 発症後早期の患者では、より効果的な能力低下の回復を促すために、訓練量や頻度を増やすことが強く勧められる(グレードA)。
  3. 歩行や歩行に関連する下肢訓練の量を多くすることは、歩行能力の改善のために強く勧められる(グレードA)。
  4. 麻痺が軽度の患者に対しては、適応を選べば、非麻痺側上肢を抑制し、生活の中で麻痺側上肢を強制使用させる治療法が強く勧められる(グレードA)。
  5. 片麻痺の痙縮(けいしゅく)に対してチザニジン、バクロフェン、ジアゼパム、ダントロレンナトリウム、トルベリゾンの処方を考慮することが強く勧められる(グレードA)
  6. 上下肢の痙縮に対しボツリヌス療法が強く勧められる(グレードA)。
  7. 脳卒中患者においては、嚥下障害が多く認められる。それに対し、嚥下機能のスクリーニング検査、さらには嚥下造影検査、内視鏡検査などを適切に行い、その結果をもとに、栄養摂取経路(経管・経口)や食形態を検討し、多職種で連携して包括的な介入を行うことが強く勧められる(グレードA)
  8. 言語障害に対して、言語聴覚療法を行うことが強く勧められる(グレードA)
  9. 有酸素運動トレーニングもしくは有酸素運動と下肢筋力強化を組み合わせたトレーニングは、有酸素性能力、歩行能力、身体的活動性、QOL(生活の質)、耐糖能を改善するので強く勧められる(グレードA)

(2020.2.25 更新)

文献
1.脳卒中治療ガイドライン(2015)、編集:日本脳卒中学会、脳卒中ガイドライン委員会、協和企画、東京 2015
2.小林祥泰編:脳卒中データベース 2015、中山書店、東京 2015
3.回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する調査報告書、編集:回復期リハビリテーション病棟協会 2019

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