【どのような病気か?】
悪性リンパ腫はリンパ球のがん(腫瘍)です。リンパ球は白血球の一種で細菌やウイルスなどの感染から体を守ったり、癌を攻撃したりする働きをしています。リンパ球はさらにT細胞、B細胞、NK細胞の3つに細分類されています。リンパ節はリンパ球が集まっている場所であり、首、脇の下、足のつけ根など全身いたるところにあります。悪性リンパ腫はリンパ節から発生し増殖することが多いので、一般的にはリンパ節が腫れてきます。しかし、リンパ球は体の中のどこにでも存在するので、悪性リンパ腫は全身どこにでもおこり、しこり(腫瘤)が出現します。
悪性リンパ腫には様々なタイプがあり、いろいろな分類がなされています。たとえば組織像の違いから、大きくホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫の2つに分類されます。そして、非ホジキンリンパ腫はさらに細かく分類されています。また、リンパ球の種類からT細胞性リンパ腫、B細胞性リンパ腫、NK細胞性リンパ腫という分類法もあります。さらに悪性リンパ腫の進行の違いにより、低悪性度リンパ腫(年単位で進行するタイプ)、中等度悪性リンパ腫(月単位で進行するタイプ)、高悪性度リンパ腫(週単位で進行するタイプ)というような分類法もあります。
【原因】
悪性リンパ腫がおこる原因はまだ十分には解明されていませんが、一部ではウイルス(EBウイルス、HTLV-1ウイルスなど)や細菌(ヘリコバクター・ピロリ菌など)などの感染との関連が明らかにされています。例えば成人T細胞性リンパ腫は、HTLV-1ウイルス感染により起こるリンパ腫であり、九州などに多くみられます。母乳から感染しキャリア(ウイルスはいるが症状がない状態)となり、通常、50歳以降になるとリンパ腫や白血病を発症することがあります。
【症状】
主に首、脇の下、足の付け根などのリンパ節が腫れてきて、次第に大きくなります、鶏卵大以上になることもあります。腫れているリンパ節を触っても痛みがないのが特徴です。リンパ節以外にも、胃や皮膚などあらゆる臓器や組織に腫瘤ができることがあり、健診などで偶然発見されることも稀ではありません。また、肝臓や脾臓の腫大、腹水、胸水を認めることもあります。自覚症状として発熱、体重減少、寝汗をかくなどの症状を伴うことがあり、これらはB症状と呼ばれています。
【診断の進め方】
悪性リンパ腫の診断には、腫れているリンパ節などの腫瘤を少なくとも1つはとって調べることが必要です。これは生検(リンパ節の場合はリンパ節生検)と呼ばれています。摘出した腫瘤を細かく切って様々な標本を作成し、顕微鏡で観察することにより診断されます。生検の結果、どのような種類のリンパ腫であるのか明らかになります。これを病理診断と呼びます。また、リンパ節から得られた細胞の蛋白解析、染色体分析、遺伝子解析なども同時に行なわれることが多く、これらの検査により、診断が確実なものとなります。
診断がついたら、次に悪性リンパ腫の全身への広がりについて調べます。具体的には胸部X線検査、CT検査、MRI検査、超音波検査、骨髄検査などが行われます。最近では、全身のPET検査も施行されるようになってきました。これらの検査結果により、悪性リンパ腫の広がりが明らかになり、病期(リンパ腫の進行度)が決定されます。病期は1期からⅣ期に分類されており(図参照)、治療方針を決めるために大変重要です。
図1 悪性リンパ腫の臨床病期の分類
【治療法及び治療成績】
図2 悪性リンパ腫の治療法
悪性リンパ腫の治療法には化学療法、抗体療法(分子標的療法)、放射線療法、造血幹細胞移植などがあります(表参照)。個々の患者さんに対する治療方針は悪性リンパ腫のタイプと病期だけではなく年齢、全身状態、血液検査の結果なども踏まえて決定されるので、専門医による判断が非常に重要です。治療の選択が複数ある場合もあります。その場合はそれぞれの治療法のよい点、悪い点について担当医から説明がなされます。その内容を十分理解して、担当医と相談して治療法を選択するのがよいでしょう。
悪性リンパ腫はその種類により治療法が異なります。わが国で頻度の高いリンパ腫は、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、ろ胞性リンパ腫、MALTリンパ腫、ホジキンリンパ腫、成人T細胞性リンパ腫などです。それらの治療法について下記に示します。
1.びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫
一般的にR-CHOP療法が行われます。R-CHOP療法は抗体療法であるリツキシマブ(リツキサン)を併用した化学療法です。リツキシマブはリンパ腫細胞に存在するCD20という蛋白に対する抗体であり、CD20 に結合することによりリンパ腫細胞が死滅します。化学療法薬としてはシクロホスファミド(エンドキサン)、ドキソルビシン(アドリアシン)、ビンクリスチン(オンコビン)、プレドニゾロン(プレドニン)が用いられます。限局期(病期I、II)の場合には、R-CHOP 3コースと放射線療法(区域照射)の併用、またはR-CHOP 6コースが行われます。進行期(病期III、IV)の場合にはR-CHOP 6~8コースが行われます。予後が悪いと予測される場合にはその後、自家末梢血幹細胞移植を行うこともあります。予後に関係する因子としては、
- 年齢61歳以上
- 全身状態不良(軽作業もできない状況)
- 血液検査でLDHが高値
- リンパ節以外の病変数が2か所以上
- 病期IIIないしIV
の5つがあり、これらの因子を満たすほど、予後は悪くなります。例えば5年生存率は5つのうち1つ以下しか満たさない場合は73%、4つ以上満たす場合は26%という成績が報告されています。
2.ろ胞性リンパ腫
限局期(病期I、II)の場合には、区域放射線照射が行われ、約半数の患者で治癒が期待できます、予後が悪いと予想される場合(B 症状がある場合や腫瘤が大きい場合など)には、進行期(病期III、IV)に準じた化学療法がなされます。進行期の場合には、リツキシマブ(リツキサン)を併用した化学療法が行われます。しかし、ろ胞性リンパ腫は年単位でゆっくり進行する低悪性度のリンパ腫であることから、高齢者では治療せずに経過観察されることもあります。予後に関係する因子としては
- 年齢61歳以上
- 血清β2-ミクログロブリン値高値
- 悪性リンパ腫の骨髄浸潤
- ヘモグロビン12g/dl未満
- 最大病変の長径6cm以上
の5つがあります。これらの因子を満たすほど、予後は悪くなります。例えば5年生存率は、すべて満たさない場合は98%、3つ以上満たす場合は77%と報告されています。
3.MALTリンパ腫
MALTリンパ腫の約40%は胃にできます。胃の中にいるヘリコバクタ-・ピロリ菌がMALTリンパ腫の発症や増殖に関係しており、この細菌を抗菌薬などで殺菌することにより、リンパ腫がよくなります。奏功率は60~80%です。胃以外のMALTリンパ腫は、肺、唾液腺、瞼、目、皮膚、甲状腺などにしばしばみられます。治療法としては限局期の場合には外科的切除あるいは放射線療法が行われます。進行期の場合には化学療法が行われます。予後は比較的良好であり、10年生存率は約80%です。
4.ホジキンリンパ腫
ホジキンリンパ腫に対してはABVD療法と呼ばれる化学療法が行われます。これはドキソルビシン(アドリアシン)、ブレオマイシン(ブレオ)、ビンブラスチン(エクザール)、ダカルバジン(ダカルバジン)の4剤を用いた治療法です。限局期では4~6コース、進行期では6コースの治療を行うのが一般的です。放射線療法が追加されることもあります。ホジキンリンパ腫は化学療法が効きやすいタイプのリンパ腫であり、約75%が治癒します。
5.成人T細胞性リンパ腫
高悪性度のリンパ腫であり、化学療法のみで治癒することは極めて困難です。2012年に再発または難治の成人T細胞性リンパ腫に対する新規抗体療法薬であるモガムリズマブ(ポテリジオ)が保険適応となりました。この薬剤は50%の患者に奏功します。今後、本剤と化学療法を組み合わせた治療により、さらに治療効果の向上が期待されています。本症に対する治療法の中で治癒が期待できるものは同腫造血幹細胞移植のみです。移植後3年の生存率は約40%前後です。