急性白血病│特定非営利活動法人 標準医療情報センター


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【どのような病気か?】

 急性白血病とは未熟な白血病細胞が増殖する白血球の悪性腫瘍疾患で、いわば血液中の白血球のがんです。白血病細胞は骨髄をはじめとする全身の臓器に浸潤し、末梢血にも出現します。急激な臨床経過をとる白血病で、増えている白血病細胞の種類によって急性骨髄性白血病と急性リンパ芽球性白血病に分けられます。

【原因】

 白血球やリンパ球のもとになる血液幼若細胞に遺伝子異常がおこり、急性骨髄性白血病や急性リンパ芽球性白血病が発症すると考えられています。急性白血病の約半数例で染色体異常が認められ、多くの症例で特異的な遺伝子異常が認められます。例えば分化型の急性骨髄性白血病では、白血病細胞の染色体分析をすると8番染色体と21番染色体が入れ替わっており、それによってRUNX1-RUNX1T1融合遺伝子という正常にはみられない遺伝子が認められます。この異常の遺伝子は、白血球の基になる幼若な血液細胞の増殖を促進し、分化を阻害するように作用します。複数の遺伝子異常が生じた結果、急性白血病が発症すると考えられております。

【症状】

 急性白血病では白血病細胞は骨髄内で増えますので、白血球数は多くの場合に増加し、骨髄や脾臓、リンパ節で増殖するために、骨痛、脾臓腫大、リンパ節腫脹、歯肉腫脹などの症状が出ます。本来骨髄でつくられる正常の白血球、赤血球、血小板が造られなくなるため、細菌などの感染症にかかりやすく、発熱、肺炎、点状出血斑や青あざ(紫斑)、だるさ、息切れなどの症状が出ます(図1)

急性白血病の症状

図1 急性白血病の症状

【診断の進め方】

 急性白血病の診断は、採血した血液の血算検査と血球の産生場所である骨髄での造血状態をみるための骨髄検査によります。骨髄の中で増えている白血病細胞について、形態学的検査、免疫学的検査による細胞表面形質、染色体・遺伝子分析などを行い、詳細な病型診断をします。白血病細胞の細胞形態、免疫学的な性質、染色体異常や遺伝子異常の種類によって白血病の病態が異なります。検査結果の情報を集め詳細な病型を明らかにすることによって、適切な治療法を行うことができるようになります。特異的な染色体異常・遺伝子変異によって病態が異なるのみでなく、治療への反応性も異なり、予後も異なることが明らかになっています。

【治療法及び治療成績】

急性白血病の治療

図2 急性白血病の治療

 体中のすべての白血病細胞を消失させ、正常の血液細胞の産生を回復させることを目標として治療を行います。始めに行うのが寛解導入療法で、多種類の抗がん薬を決められたスケジュールにそって同時に注射または内服します(図2)。同時に複数の抗がん薬を投与することで、抗がん薬の効果をさらに高めて副作用を減らすことができ、また急速に白血病細胞を減らすことによって、抗がん薬に効かない細胞が出現するのを防ぎます。抗がん薬の種類や投与方法は日本成人病白血病グループによって作成されたものを用いるのが一般的です。

急性骨髄性白血病

 急性骨髄性白血病の寛解導入療法では、抗がん薬の多剤併用としてアントラサイクリン[イダルビシンまたはダウノルビシン]とシタラビン[キロサイト]を用いるのが標準的治療です。特殊な病型である急性前骨髄性白血病では、白血病細胞の潜在的な分化能力を利用して、白血病細胞を成熟好中球に分化させる、いわゆる分化誘導療法を行います。分化を誘導するレチノイン酸[ベサノイド]と抗がん薬の併用が有効です。また高年齢で全身状態が良好な方には、年齢に応じた通常の化学療法(抗がん薬の多剤併用)が行われますが、全身状態が不良で通常の化学療法に耐えられないと判断された場合には、よりマイルドな治療、少量シタラビンとアントラサイクリン併用療法やメチル化阻害薬[アザシチジン]とbcl-2阻害薬[ベネトクラクス]の併用療法などが行われます。治療効果があれば白血球数や血小板数が正常化し、骨髄でも白血病細胞がほとんど検出できなくなります。このような状態を寛解といいます。

 寛解に達した後にも体中にはまだ多数の白血病細胞が存在しますので、再発するのを防ぐために地固め治療、維持療法を行います。地固め療法は染色体などの予後因子によって異なり、それぞれの予後予測に応じた治療を行います。予後が良好で治りやすいと予想される予後良好群については、地固め療法としてシタラビン大量療法を行います。予後不良群、つまり治りにくいと思われる場合や、予後が中間であると考えられる群には、地固め療法を行い、可能であれば造血幹細胞移植療法を行います。地固め療法は通常アントラサイクリンを含む抗がん薬の多剤併用を行います。白血病細胞が頭蓋内、脊髄腔内に入って症状をおこさないように、抗がん薬を脊髄腔内に注射することも行います。維持療法は若い急性骨髄性白血病では行わないことが多いのですが、高齢者では行うこともあります。急性前骨髄性白血病ではレチノイン酸または合成レチノイド[タミバロテン]を用いた維持療法を行います。

 造血幹細胞移植が行えるのは60-65歳までの年齢で、遺伝学的な情報が一致、または非常に似かよった骨髄提供者が必要です。適切な骨髄提供者が血縁にいない場合には、骨髄バンクや臍帯血バンクから提供者を探します。造血幹細胞移植は、大量の抗がん薬や放射線を照射した後に、提供者からの造血幹細胞を移植します。移植は移植関連の死亡率が高い治療法ですが、成功すれば治癒となります。

 再発時の治療は再発時期や前治療歴によって抗がん薬の種類が異なります。再発をきたした場合、未使用の抗がん薬を含む多剤併用の他、白血病細胞にFLT3遺伝子変異があれば、FLT3阻害薬[ゾスパタ]などの分子標的療法、また白血病細胞がCD33陽性であれば、抗CD33抗体[マイロターグ]による抗体療法などがあります。再度寛解になった場合にはその後造血幹細胞移植という選択もあります。再寛解時に化学療法を選択するか、造血幹細胞移植を選択するかは、白血病自体の再発率や移植に関連して生じる死亡率によって決めます。

 急性前骨髄性白血病の再発時には亜ヒ酸[トリセノックス]が有効で、その後自家造血幹細胞移植が有効ですが、移植ができない場合にはCD33抗体が有効です。

 日本での若年成人急性骨髄性白血病の寛解率は70-80%、5年生存率は40%前後の無病再発率です。急性前骨髄球性白血病の寛解率は70未満では90%以上、4年無病再発率は84-91%、生存率は約80%です。高年齢で全身状態不良のためにメチル化阻害薬とbcl-2阻害薬の併用療法を行った場合には、外国からの報告によると寛解率67%、生存期間中央値17.5か月でした。造血幹細胞移植後の5年生存率は骨髄提供者の種類、移植時期、患者さんの年齢などによりますが50-60%です。

急性リンパ芽球性白血病

 急性リンパ芽球性白血病の寛解導入療法は急性骨髄性白血病と同様に化学療法、抗がん薬の多剤併用ですが、フィラデルフィア染色体という特殊な染色体がある場合には分子標的であるチロシンキナーゼ阻害薬[イマチニブなど]が加わります。フィラデルフィア染色体陽性の高齢者ではチロシンキナーゼ阻害薬と副腎皮質ホルモン[プレドニゾロン]が勧められます。また若年成人では小児で使用される薬剤を用いることが推奨されています。寛解後は地固め療法を行いますが、大量メトトレキサート[メトトレキセート]や大量シタラビンなどが用いられます。急性リンパ芽球性白血病では抗がん薬の多剤併用による維持療法を行います。

 骨髄提供者がいれば造血幹細胞移植が選択されます。高齢者では移植の前処置として抗がん薬の量を減弱させた前処置を行うこともあります。造血幹細胞移植が行われない場合には維持療法が必要です。フィラデルフィア染色体がある場合にはチロシンキナーゼ阻害薬を含む維持療法を行いますが、チロシンキナーゼ阻害薬は長期継続することが推奨されます。

 再発時の治療は再発時期や前治療歴によって抗がん薬の種類が異なります。B細胞白血病細胞の表面抗原に対する抗CD22抗体薬物複合体(イノツズマブオゾガマイシン、[ベスポンサ])、抗CD19二重特異性T細胞誘導抗体(ブリナツモマブ、[ビーリンサイト])などの新しい薬剤があります。フィラデルフィア陽性症例の再発ではイマチニブ抵抗性が考えられ、ダサチニブが有効である可能性があります。T細胞性白血病細胞に対してはネララビン[アラノンンジー]が有効です。適応は限られていますが、最近CART療法[キムリア]が適応になりました。

 急性リンパ芽球性白血病の寛解率は70-90%、3-5年生存率は30-50%です。造血幹細胞移植の5年生存率は約50-60%です。フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ芽球性白血病の寛解率は約60%、3年生存率は約60%です。造血幹細胞移植の5年生存率は骨髄提供者の種類、移植時期、患者の年齢などによりますが40-60%です。

文献

1) 日本血液学会(編集). 造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版. 東京, 金原出版;2018 : 8-88.

(2022年3月更新)

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