特定非営利活動法人 標準医療情報センター

【はじめに】

日本救急医学会、日本集中治療医学会、日本循環器病学会の3学会は、それぞれが終末期医療について、ガイドライン的なものを公表しています。この種の論文の表題には、しばしば指針、勧告、提言、報告といった表現もあります。厳格な用語の定義はないと思いますが、本稿ではガイドラインとして統一しておきました。
上記の3学会を構成する会員によって対応される終末期医療には、他の診療科で行なわれる終末期対応とは大きく異なる場合があります。その説明をする前にまず「集中治療」とはどのような診療科目であるかについて述べます

「集中治療」とは、内科系・外科系のどちらの患者でも、重症患者を施設の一定場所に中央化して集め、専門医師の管理のもとで、必要に応じてさまざまな診療科の医師が参加して、強力な集学的治療を行う医学の一分野です。最近は一般の方にも知られるようになったICUという用語は、Intensive Care Unitの頭文字をとったもので、集中治療の場という意味です。

大病院では専門別のICUを設けるところもあります。循環器病学会の場合は、CCU (冠疾患集中治療室:Coronary Care Unit)というのがあって、心筋梗塞に代表される心疾患の治療の場があります。この他の病気では、たとえば脳卒中の患者を受け入れる脳神経内科の集中治療の場があります。要するに施設の持つ人的、物的資源を動員して質の高い医療を効率よく行う場です。

本稿では、はじめに救急・集中治療の現場を理解いただき、3学会がどのような背景のもとに共同で提言するに至ったかを説明し、今後の方向性について考えます。

【救急・集中治療の現場と終末期医療】

現在の医療は、その病気について患者本人や家族・関係者に十分な時間をかけて納得のいくように病状を説明し、さまざまな治療の選択肢や起こりうる合併症を伝えながら、患者側と医療者側双方の合意のもとで治療が行われます。

たとえば、「がん」末期の場合、患者本人が迎えるであろう最期の医療をどのようにするのか、医療者側は患者・家族との話し合いに十分時間をかけて、皆で考えるだけの余裕があります。何よりも本人にとっていいことは、人生の幕引きをするまでの時間を家族や親しい人との絆を確かめながら毎日を大切に過ごすことができます。医師も最後まで生活の質をできるだけ高く維持するよう努力します。

ところが救急・集中治療の場面では、患者の多くは、このような時間的余裕がありません。

  • 交通事故や転落事故といった急な事故によって、今までは元気だった体がいきなり動かなくなり、呼んでも応えず、呼吸や脈拍も弱くなるほどの瀕死状態におちいった場合
  • 心筋梗塞や重症不整脈で心臓が突然止まってしまった場合、不意に脳卒中となって意識がはっきりせず、動くことも話すこともできなくなった場合
  • 重篤な肺炎で突如として呼吸障害が起きて倒れたりする場合

などがあります。このように何の前触れもなく、突然の生命危機に瀕する事態が日常生活の場面で起こりうる、それが救命救急の現場なのです。
このようなとき、患者は多くの場合、どのような治療を受けたいか、といった自らの考えを思うように医療関係者に伝えることはできません。また家族は医師の説明を聞いても、このような突然の状況を冷静に理解し、実は家族が想像する以上に生命が危ない状況であることを、受け容れるだけの精神的余裕がないのが普通です。こうした緊迫した状況では、直接に現場で対応している医師団が、患者・家族にとって最も適切であると判断した治療を最優先して行うことになります。

最重症の場合、突然に心臓や呼吸が止まり、心臓マッサージや人工呼吸などの蘇生術も必要となります。機械による人工呼吸では、気管の中に管(チューブ)を入れます。声を出して話はできません。患者には血圧・心電図、血中に酸素が十分に送り込まれているかどうかを測定するセンサ(パルスオキシメータ)などの装着が必要で、静脈点滴用の管、動脈血採血用の管、時間ごとの尿量測定の管が留置されます。これらの管や機器と体を結ぶためのコード類が輻輳することからスパゲッティ症候群といわれましたが、最近は機器のコンパクト化、ワイヤレス化が進んで、いかにも機械に取り囲まれて生きているという印象は和らぎました。

集中治療の現場では、人工呼吸器を装着して呼吸を助け酸素を肺に送り込む方法は、ごく普通のことになっています。その他、生命維持のための薬剤、各種の機器が用いられ、多くの生命が救われてきましたが、一方では機器に依存しなければ生命が維持できない状態になり、回復の見込みもなく終末期に至ることも少なくありません。このような状況は普通の終末期ではみられません。

【3学会ガイドラインへの提言(以下本ガイドラインという)】

すでに日本救急医学会は、平成19年11月に「救急における終末期医療に関する提言(ガイドライン)」を公表しています1)。すでに公表されているこの日本救急治療学会のガイドラインの内容を十分に参考にしながら、同じように、終末期医療に関するガイドラインをまとめた日本集中治療学会2)3)そして日本循環器病病学会4)も加わった3つの学会で、救急・集中治療の現場における重症患者が迎える最後の状況、つまり「終末期」への対応に関して合同で議論が重ねられました。3学会合同のガイドラインは、平成26年11月4日に公表されました5)6)。(表1)

上記の3学会が救急・集中治療領域における「終末期」の対応に関して、

  1. それぞれが想定している対象患者がほぼ同じである
  2. 「終末期」の定義とその後の対応に関して同様な考えを分かち合っている
  3. いろいろな提言、勧告、指針が存在することは現場や患者・家族・関係者、社会に対してさまざまな混乱と誤解をまねく恐れがある

との認識で一致し、本ガイドラインは作成されました。

表1.「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン
~3学会からの提言~」の公表まで
平成18年
日本集中治療学会「集中治療における重症患者の末期医療のあり方についての勧告」
平成19年
日本救急医学会「救急医療における終末期医療に関する提言 (ガイドライン )」
平成23年
日本集中治療学会「集中治療領域における終末期患者家族のこころのケア指針」
日本循環器学会 「循環器疾患における末期医療に関する提言」
平成26年
日本救急医学会・日本集中治療医学会・日本循環器学会 合同
「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン ~3学会からの提言~」

【本ガイドラインの位置づけ・使い方】

本ガイドラインでは、救急・集中治療の現場でさまざまな治療を尽くしたにもかかわらず、残念ながら死が確実となった患者に対して、患者の人間としての尊厳を重視し、その家族・関係者への対応をどのようにすべきかについて 考えや筋道を示しています。しかし、施設や症例によって、それぞれ状況が異なることは十分に考えられます6)7)

そこで、生命の危険に瀕した患者と家族に対応するという特殊な状況を考慮した上で、3学会は、本ガイドラインの使用を必ずしもすべての施設・症例で強制するものではないとしています。救急初療室に瀕死の重症患者が搬送された場合、その状況に応じてまず救命行為を行うべきか、それとも行うべきでないか、といった重要な判断をする基準を設けることについては、「終末期」とはまた別の問題としており、本ガイドラインでは取り扱っていません6)7)

【「救急・集中治療における終末期」の定義】

本ガイドラインでは、集中治療が必要とされる患者で、その生命が常に危険な状態である場合に、たとえ適切な治療を尽くしても生命が助かる見込みがないと判断される時期を「救急・集中治療における終末期」としています。
その判断の根拠となる具体的な場合として以下の4つがあります5)

  1. 意識が高度に障害されて強い痛み刺激に反応せず、高次脳機能を営む大脳半球はもちろん、脳の奥深くにあって呼吸・循環を制御している脳幹部と呼ばれる部位の機能も障害された状態で、回復の見込が全くない状態を「不可逆的全脳不全」といいます。つまり、脳死状態と判断されるときですが、まだ死の判定はされていないので全脳不全という考え方です。
  2. 「助かるかもしれない」と考えて、呼吸器などの生命維持装置を使用し始めたが、やがて生命維持に必須の主要臓器のいくつかが機能しなくなり、回復の見込みがないと判断されたとき。
  3. すでに行われている治療に加えて、さらに行うべき治療方法が他になく、たとえ今行われている治療を続けても近いうち(およそ2~3日以内)の死亡が確実と見込まれるとき7)
  4. 集中治療を行っている間に、不治の他の基礎疾患ががあると判明したとき。たとえばがん末期の状態であることが判明したとき。

これら4つのうち、いずれかに当てはまれば、「救急・集中治療における終末期」といえます。この「終末期」の定義は、本ガイドラインにさきがけて発表された日本救急医学会のものにならっています。

表2 「救急・集中治療における終末期」 にあてはまる
具体的な4つの場合
  1. すべての脳機能が失われ、改善の見込みがない
  2. 主要臓器が全く働かず、その代替えの治療方法もない
  3. 追加の治療方法がなく、近いうち死亡が確実
  4. 積極的な治療開始のあとで、「がん末期」のように、回復の見込みがないとわかった

救急医学専門医を対象としたアンケートでは過半数の医師から賛成を得た内容になっています。しかし1.から4.までのいずれの定義についても容認できない、という意見も少数ながら存在します8)。今後、さらに医療従事者のみならず、関係者すべてに受け容れられるような洗練された定義を求めて検討する余地があると思われます。(表2に終末期に当てはまる具体例をあげました)

【延命措置への対応】

医療チーム(医師、看護師が主体)が、この「終末期」であると判断した場合、患者とその気持ちをよく理解している家族・関係者に対してこのように説明します。

  • 患者の病状は、よくなる見込みが全くないこと
  • 治療を続けても生命が助かる見込みが全くなく、これ以上の措置がかえって患者の「人間としての尊厳」を損なう可能性があること

これらをきちんと説明したうえで家族・関係者から理解を得ます。そのうえで医療チームは「延命措置」への対応をとります。

「延命措置」の対応は大きく4つに分類されます。

  1. 患者の意思が確認できる
  2. 患者の意思は確認できないが、家族らがその患者の意思を推定できる
  3. 患者の意思を確認できず、家族らもその患者の意思を推定できない
  4. 患者の意思を確認できず、その患者が身元不明などの理由で家族らとは連絡などが取れない(救急の場合は起こりうることです)

それぞれの分類での対応の内容ですが、
Iでは、原則として患者の意思を尊重します。もしも患者の家族側で患者とは意見が違えば、患者と家族との意見が同じになるよう適切な支援を行います。
IIでは、家族によって推定された患者意思を尊重します。
IIIでは、家族らが希望する対応の積極性によって3つに分かれます。

  1. 積極的な対応(つまり「積極的な治療」)を、家族らが希望している場合
    →原則として、現在の措置を維持します。ただし、家族らには正確・わかりやすい言葉で「患者の状態が極めて重篤で、現時点の医療水準で可能な最適の治療によっても回復不可能であり、これ以上の延命措置は患者の『人間としての尊厳』を損なう可能性がある」ことを伝え、改めてその意思を確認する必要があります。
  2. 延命措置の中止を家族らが希望している場合
    →家族らと協議のうえ、延命措置を減らす、または中止する方法を選択します。
    同時に、患者にとって最善の対応をするという原則に従って行います。
  3. 家族らが医療チームに判断を委ねる場合
    →医療チームが、患者にとって最善の対応を検討し、家族らとの合意を形成するようにします。
  4. 医療チームは患者にとって最善の対応となるように、延命措置を中止するかしないか、またその時期や中止の方法について判断します。

図1 「延命措置」の分類とその対応

【延命措置についての選択肢】

「延命措置」には以下の4つの選択肢があります。

  1. 現在の治療を維持する(新しい治療は控える)
  2. 現在の治療を減らす
  3. 現在の治療を中止する
  4. 上記のI~IIIのどれかを条件付きで選ぶ

実際に「延命措置」を減らす、または中止する対応については、以下の通りです。

  1. 生命維持装置(人工呼吸器、ペースメーカーや人工心肺などの補助循環の中止)
  2. 血液浄化(透析など)の終了
  3. 呼吸・循環管理の方法の変更(呼吸器設定や昇圧薬・輸液の投与量など)
  4. 心停止となっても心蔵マッサージなどの「蘇生処置」を行わない。

これらは、いずれの選択肢でも患者・家族らに説明し、その内容によっては後戻りできない場合があることも十分説明します。また、緩和的処置(麻薬や鎮痛薬などの投与によって精神的、身体的苦痛をとるなど)は続けます。

 

ガイドラインは上記以上の詳細については触れていませんが、病院としては終末期医療についての方針が必要で、医学的、倫理的、法律的観点からの配慮は不可欠です。患者家族への対応は重要で家族に悔いが残らないようにしなければなりません。また、委員会を設けていろいろなことを決めておく必要があります。たとえば、重要な決定が一人の医師の判断でなされないよう、複数の医師あるいは看護師を含んだ決定法をあらかじめ決めておく必要があります。このようなことはマニュアル化しておくべきでしょう。しかし、末期の具体的対応となるとマニュアル化で一般化されるようなものではありません。終末期医療は、人の「生と死」と同様に個別化されるべきものと考えます。(図2)

図2 病院としての終末期医療についての方針(ガイドラインには含まれない点)

【医療チームの役割】

救急・集中治療に携わる医療チームは、ただ単にその医療知識や技術的水準についての専門性が求められるだけではありません。患者が「終末期」にあることを知った家族がおちいる精神的動揺といった不安定な状況にあっても、患者にとって最善となる意思決定へ導くため、患者家族との信頼関係を維持してゆくことや、患者が今おかれている状況・これからの対応方針などについて情報を提供し、家族をいろいろな面から支援することが重要です3)

【おわりに】

救急・集中治療の現場では、今まではまず患者の救命を第一義とし、その維持に大きな関心が持たれてきました。今後は救命のための適切な治療方法を追求する一方で、救命が不可能であると判断された終末期において、医療者がどのように向き合うかが重要であると考えます。今後とも現場での知識、経験が蓄積され、問題点とその解決方が検討される必要があります。このガイドラインがよりいっそう改善・洗練され、患者・家族が理解し受け容れやすいものになることが期待されます。



追記

このような解説をしている間にも救急・集中治療の現場では日常的に延命治療が行われています。医療は医師と患者・家族との間に成熟した信頼関係がなければ成り立ちません。待ったなしの事態に遭遇する患者・家族を対象とする救急・集中治療では、難しいということはご理解いただけたと思います。
医師は差し迫った危機的状況に対応する一方で、限られた時間的制約の中で患者・家族へ病状や治療法の説明をしつつ信頼関係の構築を図る、という難関を克服しなければなりません。それには医師だけでなく、患者・家族の双方の努力が必要です。
昨今は延命医療が問題になる場合が多くなったと思います。患者本人に意識障害があると、本人の意思を確かめようがありません。そこで家族の意向が非常に大切になります。家族内で意見をまとめておく必要もあります。万一の事態におちいったとき、自分の意思を普段から口頭で家族に伝えておくとか、書きものにしておくと家族の決断に役立つでしょう。
生死にかかわる全ての決定権を家族にゆだねることは、医師としての責任を回避しているのではないか、という考えがあります。しかし、医師が「自然科学的思考」だけで決断できる、あるいは決断すべきだ、という考えは幻想に過ぎないのです9)。担当医師にだけに任せるのではなく、医療チーム全体が医療・倫理・法律上の問題に十分配慮して、その人にもっとも適切と思われる終末期のケア計画をたてることになります。(表3)

表3 終末期医療を理解するための重要事項 (追加として)
  • 医療とは医師と患者・家族との間の「成熟」した信頼関係で成り立つ
  • 医師が克服すべき難関:
    ①差し迫った危機的状況に対応
    ②限られた時間的制約下で,
     *患者・家族へ病状や治療法を説明
     *患者・家族との信頼関係の構築を図る
      ⇒医師+患者・家族の努力が必要
  • 患者になりうることを想定して, 普段から自分の意思を口頭で家族に伝える・書面にする(万が一の事態におちいったとき、家族の決断に役立つ)
  • 生死にかかわる全ての決定権を家族にゆだねる≠医師の責任回避
  • 自然科学的思考」だけで医師は決断可能=「幻想」にすぎない
  • 医療チーム全体(担当医だけではなく)が, 終末期医療のケア計画をたてる

文献

  1. 日本救急医学会特別委員会. 救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン)について.日本救急医学会雑誌 2007; 18: 781-6.
  2. 日本集中治療医学会. 集中治療における重症患者の末期医療のあり方についての勧告: 日本集中治療学会, 2006: http://www.jsicm.org/publication/kankoku_terminal.html
  3. 日本集中治療医学会. 終末期患者家族のこころのケア指針: 日本集中治療医学会, 2011: http://www.jsicm.org/pdf/110606syumathu.pdf
  4. 日本循環器学会. 循環器疾患における末期医療に関する提言: 日本循環器学会, 2011: http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010_nonogi_h.pdf
  5. 日本救急医学会. 救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン ~3学会からの提言~: 日本救急医学会, 2014: http://www.jaam.jp/html/info/2014/pdf/info-20141104_02_01_02.pdf
  6. 日本救急医学会. 「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン ~3学会からの提言~」を公表するにあたって: 日本救急医学会, 2014: http://www.jaam.jp/html/info/2014/pdf/info-20141104_02_02.pdf
  7. 日本救急医学会. 「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン ~3学会からの提言~」を公表するにあたって Q&A集: 日本救急医学会, 2014: http://www.jaam.jp/html/info/2014/pdf/info-20141104_02_03.pdf
  8. 救急医療における終末期医療のあり方に関する特別委員会: 『救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン)』に関するアンケート結果報告. 日救急医会誌 2008; 19: 1116-22
  9. ポール・フリッチェ著, 佐藤登志郎・古郡悦子訳. 生と死の境界-医学・法律・倫理からみた諸問題, 国際医学出版. 1985.
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