特定非営利活動法人 標準医療情報センター

放射能(線)による健康障害

放射線の分類

 放射線(能)とは、一般的に、電離放射線のことを言い、①電磁波、②荷電を持つ粒子線、③荷電を持たない粒子線に分類できます。電磁波は、エックス線、ガンマ線などです。荷電を持つ粒子線はアルファ線、ベータ線、電子線、陽子線、重粒子線です。荷電を持たない粒子線は、中性子線です。
放射線障害は電離放射線による身体の障害のことを指しています。放射線による被曝には外から放射される体外被曝と、放射能物質を身体に取り込むことによる体内被曝とがあります。

放射線障害の二つのタイプ

 放射能による身体に対する障害には二つあります。一つは大量の放射能を身体に浴びて急性の身体障害を起こす場合(急性被曝)と、もう一つは少量の放射能を長時間浴びて健康障害を起こす場合(慢性被曝)です。
同じ量の放射線量でも一度に受けた場合と時間をかけて受けた場合は、受ける障害の程度は異なり、一度に受けた場合が障害の程度は大きくなります。

放射線による急性障害

 放射能物質を大量に曝露された場合、火傷、吐き気などの急性の放射線障害を起こします。急性の放射線障害は核爆弾、核施設の事故、ある種の放射線治療などの際に生じます。 短期間に全身被曝した場合の致死線量は、

  • 5%致死線量(被曝した人の100人に5人が死に至る線量):2シーベルト(Sv)/時間
  • 50%致死線量(被曝した人の半数が死に至る線量):4Sv(4000mSv/時間)
  • 100%致死線量(被曝した人のほぼ全員が死に至る線量):7Sv(7000mSv/時間)

とされています。
200ミリシーベルト(mSv)(1mSv=1000μSv)以下の被曝では、急性の臨床的症状(急性放射線症)は認められないとされています。しかし、これはあくまで急性の症状です。
今回、発表された福島第一原発3号機付近の「400mSv毎時」という放射線量は、5%致死線量(2Sv=2000mSv)の5分の1にあたります。つまりこの5倍の線量に約1時間さらされた場合、20人に1人が急性放射線症によって死に至る可能性があるということになります。

放射能物質による慢性障害

 それぞれの放射性物質によって異なりますが、皮膚を通して、あるいは呼吸を通して、あるいは食物を通して体内に侵入します。
一旦体内に取り込まれた放射能物質の影響はいろいろな因子によって左右されます。先ずその物質のエネルギー、その物質の分解速度、身体の中での滞留時間、その物質が身体の中のどの部位に留まるかによっても異なります。また、どのタイプの放射能を浴びたかによっても障害は異なります。長期的な障害としては、癌や出産障害、不妊、遺伝的障害などを生じる可能性があります。それについては後述します。

自然界の放射能物質

表1.1年間に浴びる放射線の量
(米国放射線予防委員会資料)
放射線源の種類 平均被曝量(mSv)
自然界に存在する放射線源
ラドンガス 2.00
その他の地上の放射線源 0.28
大気圏外からの放射線 0.27
自然界に存在する放射性元素 0.39
小計 2.94
人工的放射線源
診断的X線検査(平均的な人の場合) 0.39
核医学検査 0.14
消費財によるもの 0.10
兵器テストによる放射能 0.01未満
原子力産業 0.01未満
小計 0.63
年間被曝量 計 3.6
その他の放射線源
航空機による旅行 0.005mSv/飛行時間
歯科X線検査 0.09
胸部X線検査 0.10
バリウム注腸検査 8.75

 自然界には現在、いろいろな放射性物質があります。したがって、人間の体は常に、自然界から低レベルの放射線を受けています。宇宙から地上まで到達する放射線もありますが、その多くは地球の大気によりブロックされています。高地に住む人ほど多くの宇宙線を浴びることになります。また、放射性元素、特にラドンガスなどは、岩石や鉱物の中に存在しています。これらの放射性元素は、最終的には食品や建築資材などのさまざまな物質に含まれることになります。地下室や新しく建てた鉄筋コンクリートの近くは放射性ラドンが高くなります。
また核爆弾、核兵器の実験による放射能物質の汚染もあります。1人あたりの被曝量は一般に、年間平均3~4mSv(1mSv[ミリシーベルト]=1Svの1000分の1)になります。放射性物質とはその物質の原子核の中の構造が不安定で、いろいろなタイプのエネルギーや放射線を放出するものです。放射性の中にはアルファ(α)線、べータ(β)線、ガンマ(γ)線などがあり、原子核内から出て来ます。


主な放射性物質のエネルギーの種類

アルファ線(α粒子)
 アルファ線は、陽子2個、中性子2個から成るヘリウム原子核の流れです。重い粒子のため飛ぶ距離が短く、皮膚を通しません。ただ、創があるとそこから進入します。主に呼吸と食事から身体の中に進入します。エネルギーが強力で最初に進入した部位の組織と激しく反応します。ウラン-238、プルトニウム-239などから放出されます。
ベータ線(β粒子)
電子(マイナス電荷)または陽電子(プラス電荷)の流れです。皮膚を容易に通過し、身体のどの部にも進入しますが、アルファ粒子ほどエネルギーは大きくありませんので、組織損傷の程度はアルファ粒子ほどは強くありません。そのベータ粒子がどの組織に滞留するかによって障害の程度は異なります。ベータ線を放出するものにはヨード-131、リン-32、ストロンチウム-90、トリチウムなどがあります。
ガンマ線(γ線)
 放射性物質から出る光子(フォトン)あるいは電磁波です。光と同じ速度で体内を通過します。体内を通過する際に細胞障害を生じる可能性があります。ウラン-238、ヨード-131、セシウム-137などから放出されます。
中性子線
 荷電を持たない粒子線です。サプリとしてゲルマニュームの経口摂取によりこれまでに31例の腎臓への重大な疾患や死亡が報告されています。国立健康・栄養研究所は、「サプリメントとしての経口摂取はおそらく危険と思われ、末梢神経や尿路系の障害を起こし、重篤な場合には死に至ることがある」として注意を呼びかけています。

環境に存在する主な放射性物質と健康障害

セシウム-137
 現在環境中に存在しているセシウム-134とセシウム-137などの多くは、1940年代~1960年代の核実験や核事故で放出されたと考えられています。 ウランやプルトニウム燃料の核分裂時に生じます。
セシウム-137はセシウムの同位元素の一つで質量が137です。高エネルギーのガンマ線を放出します。核爆弾の実験(特に空中実験)によって世界中の空気中に存在します。また、物質の厚さを測定する工業用機器や医学的診断や治療の目的などに用いられています。この物質は水に溶けやすいので身体の中の水分として溶解しており腎臓から尿によって速やかに排泄されます。半減期(放射線の放出量が半分になるまでの期間)は30.1年です。生体内における半減期(生物学的半減期)は約100日と言われます。体内に入るとベータ線を放出して内部被曝を起こします。余分に取り込むと白血病などを生じるリスクが高くなります。東日本大震災による放射性セシウムの飲料水や牛乳、乳製品中の暫定規制値は200ベクレル/Kg(Bq/Kg)と定められています(厚労省、2011、3、17)(WHP基準の約20倍)。
これまでに、放射性セシウムの事故と汚染は1986 年4月のチェルノブイリ原発事故の他に、病院からの同物質の盗難事件(ブラジル、1987年)、工業用同物質の溶解事故(スペイン、1998年)、 鋼鉄への混入事故(中国陝西省、2009年)、などが報告されています。
セシウム-134
 セシウム-134もセシウムの放射性同位体の1つで、質量数が134のものを指します。半減期は約2年です。核分裂生成物のうち放射能汚染の原因となる主要三核種(ヨウド-131、セシウム-137、セシウム-134)のひとつです。チェルノブイリ原発事故ではセシウム-134/セシウム-137のベクレル(Bq)で測定した割合は0.5程度だったのにたいし福島原発事故では約1.0のようです(1)。現時点で海産物などに取り込まれている比率も同程度のようです。セシウム134の半減期は約2年ですので、その時点ではその比は0.5になることになります。放射性物質が身体から離れた外部にあるとガンマー線による外部被曝、体内に摂取すると、セシウム-137と同様にベータ線による内部被曝を受けることになります。
ヨード-131
 核実験や原子炉による核分裂で生じる主な物質です。ヨード-132、ヨード-129もあります。空気中に放散されると雨によって降下し、土壌や水、植物、したがって食物を汚染します。半減期は5.05日でベータ線やガンマ線を放出します。主として呼吸器から進入しますが、食物としては最初にミルクや野菜などから進入します。ヨードは甲状腺に集まる特性があり、核実験や原発事故被害の後遺症として甲状腺をはじめ他の部位の癌のリスクが増えます。被曝時の年齢が若いほどリスクは増えます。
プルトニウム-239
 プルトニウムは人工的にウランから生成された物質で、原子炉のモックス燃料や核爆弾の燃料として使用されています。比重19.4で高エネルギーのアルファ粒子を放出し、半減期は約2万4390年ときわめて長く時間による減衰には長期間を要します。1945年以来、約10トンのプルトニウムが、核実験を通じて地球上に放出されたと言われています。長崎に落とされた原爆もプルトニウムでした。呼吸器や創から身体に進入します。吸入部位の肺では肺癌のリスクが高くなり、リンパ、血液を介して身体のどの部位にも移行し、骨の癌(白血病)、肝臓癌、などのリスクを高め、また細胞の染色体(遺伝子)損傷のリスクを高めます。文部科学省は福島第一原発の半径80km内の土壌を調べた結果、すべてのサンプルにプルト二ウム(Pu-239, Pu-240)が検出されたことを報告しています(2)。
ラドン-222
 天然にも存在し、ラジウムの放射性崩壊によって生じます。ラジウムは鉱石や土に含まれているウランの減衰によって出来ます。したがって、ビルの中には特に新しいビルの空気中に含まれており、アルファ粒子を放出します。主として肺癌のリスクを高めます。
ストロンチウム-90
 化学的にはカルシウムと似た性質を持つ。イットリウム-90に変換されながら高エネルギーのベータ粒子を放出します。半減期は約29年です。同位元素であるストロンチウム-89は半減期約50日と短いので、骨癌の治療に使用します。ストロンチウム-90は体内に入ると主として骨に蓄積され骨髄の癌、すなわち白血病リスクを高め、免疫系の脆弱化を招きます。ストロンチウム‐90が横浜のアパートの屋根から検出されたことが報告されています。これは居住者の依頼によって民間の会社が測定したものです(3)。この事実は放射線汚染がかなり広がっており、深刻に受け止めなければなりません。
ウラン-235
 半減期は約7億年です。自然界にあるウラン(比重19.05)はウラン-238が主で(99.27%)、ほかにウラン-235(0.72%)とウラン-234(0.0054%)があります。ウラン-235は自然界のウランから生成し原子爆弾や原子炉の燃料となります。広島に投下された原子爆弾は、ウラン235が用いられています。環境の放射性汚染は主としてウラン-235であると言われています。自然界ではガンマー線を放出しますが、からだの中にいろいろなルートから進入するとアルファ線によるに内部被曝を生じます。骨や腎臓などに蓄積されます。また慢性の呼吸器疾患や肺癌の原因にもなります。
テルル-129、-132
 テルルの同位体は天然にも8種類存在します。2011年3月15日、16日に東海村日本原子力開発研究機構で採集された空気中にはテルル-129とテルル-132が存在しました。
テルル-129とテルル-132の半減期はそれぞれ約1.2時間、3.3日で、α波を放出します。これらの物質も発癌性が疑われています。
トリチウム(三重水素)

 水素の同位体の1つで、放射性同位体です。原子核は陽子1つと中性子2つから構成され、質量数は3で通常の水素(H)や重水素(2H)よりも重く、元素記号では 3H と表します。自然界におけるトリチウムレベルは極めて低いのですが、原子炉関連施設内では外界に比べると高いレベルで存在し、炉の運転・整備、核燃料再処理時に発生したものが大気圏や海洋へ計画放出されています(施設起源トリチウム)。半減期は約12年と結構長いです。β線を放出します。
1960年代の核兵器(分裂と融合)の大気圏内核実験により環境中の濃度は、天然存在量の200倍程度と急増しましたが、環境中への放出量の制限により漸減しています。

原発事故を起こした福島第一原発敷地内の専用港にて2013年6月21日に1100 Bq/L、2013年9月14日の発表では15万Bq/Lと高濃度のトリチウムが検出されています。1991年2月には美浜原発の放射能漏れ事故の際に、福井県美浜沖の海水で490 Bq/Lの濃度が測定されています。また、東海再処理施設の排水の影響により、茨城県東海沖で1990年1月には、190 Bq/Lのトリチウムが海水から検出されています。トリチウムが水や水蒸気の形で胃や肺から人体に入るとそのほとんどが吸収されます。皮膚からも吸収されます。摂取量の2%程度がDNAに取り込まれると言われ、動物実験では特に造血組織に白血病などの障害が生じることが知られています。

福島第一原発事故によって放出された主な放射能物質とその分布

 図1A,Bは東海村日本原子力研究開発機構によって空気中で観測された放射性物質の種類です。 また、参考までに、図2A,Bに、フランスの放射線防護安全研究所(IRNS)がシムレーションした福島原発から漏れ出た放射線総量(A)とセシウム-137(B)の一時点での広がりを示します(4)。このように放射能物質は一つのところに止まらず、地表の風、偏西風、海などを介して地球全体に広がり、食物連鎖を経て全ての生物に取り込まれます。もちろんですが、その濃度は拡散、流れ、半減期、物理化学反応などに従って次第に薄まります。

図1A 第1回採取試料の検出核種及び濃度(Bq/cm3

採取期間:2011年3月15日14:39~3月15日17:34
採取空気量:105立米
核種 濃度(Bq/cm3
ヨウ素―131 3.0×10-5
テルル―132 2.0×10-5
セシウム―134 6.7×10-7
セシウム―136 1.2×10-7
セシウム―137 6.5×10-7
テルル―129m 8.1×10-7
ヨウ素―133 5.6×10-7
テクネチウム―99m 3.6×10-8
graph

図1B 第3回採取試料の検出核種及び濃度(Bq/cm3

採取期間:2011年3月16日9:08~3月16日17:08
採取空気量:288 立米
核種 濃度(Bq/cm3
ヨウ素―131 3.2×10-5
テルル―132 3.0×10-6
セシウム―134 5.2×10-7
セシウム―136 7.9×10-8
セシウム―137 5.0×10-7
テルル―129m 9.0×10-7
ヨウ素―133 3.6×10-7
テクネチウム―99m 2.0×10-8
graph

※1 1Bq/cm3(1立方cmあたり1ベクレル):1ベクレルは1秒間に1回の割合で放射性崩壊がおこることを意味する。
※2 テクネチウム-99mはモリブデン-99との放射平衡によって生じる同位体であるため、サンプル採取から計測までの経過時間に応じて測定値が変化する。
【資料:高エネルギー加速器研究機構】
図2A

図2A フランスの放射線防護安全研究所(IRSN)がシムレーションした福島原発から漏れ出た放射能物質の広がり(4)。フランス気象庁のデータから2011年3月12日の時点における広がり(日本は左端に見える。中央に見えるのはアメリカ大陸、右端に見えるのはヨーロッパとアフリカ大陸。大気中への急速な広がりに注意。)

図2B

図2B 同様にIRSNがシムレーションした福島原発から漏れ出たセシウム137の2011年3月15日の時点における広がり (4


 さらに最近米国科学アカデミー紀要(5)に2011年3月20日から4月19日の1月間に放出されたセシウム-137の蓄積量のシムレーションが日米ノルウェーの研究グループによって発表されました(図3AB)。米宇宙研究大学連合(USRA)の安成哲平研究員らの研究チームは、大気中の汚染物質の拡散を20キロ四方で計算するシステムを使い、事故後の天候や雨による放射性物質の降下を加味してシミュレーションしています。文科省によるセシウム-137の測定値で補正して、算出しています。分布状況は文科省の観測の傾向と一致していましたが、岐阜県や中国・四国地方の山間部でさえ、原発由来の放射性物質が沈着している可能性が示されています。北海道にも広がりがみられています。このように福島第一原発からかなり離れた地域まで広範囲に汚染が広がっている可能性があることが分かります。同報告は早急に除染を行うことと除染不可能な土壌の使用禁止を提唱しています。このシムレーションはあくまでも上記1月間の汚染です。残念ですが、2013年9月末の時点でも未だ汚染は持続しています。

図3A

図3B

図3A(上) 日米ノルウェー研究チームによる解析期間中(3月20日から4月19日)のセシウム-137の土壌への積算沈着量分布図。B(下)  さらに海洋を含めた蓄積分布シムレーション図。MBq km-2は1キロ平方メートルあたりのメガベクレル(5)。

放射能物質の単位

 自然界には既に人類が登場してから放射能物質は確実に増え続けています。住んでいる場所にもよりますが大気中には1時間あたり0.01~0.07(平均0.05)マイクロシーベルト(μSv)の放射能物質があります。 ここで、放射線の単位についてすこし触れます。
放射能の量を表す単位に、国際単位(SI単位)の一つにベクレル(becquerel, 記号: Bq)があります。1秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量が1ベクレルです。
従来は、1gのラジウムの放射能を表すキュリー(記号Ci)という単位が用いられていました。

1Ci=3.7×1010Bq=37ギガ(G)Bq [ギガ=1000メガ; 1メガ=1000キロ ]

 ベクレルという名称は、ウランの放射能を発見しノーベル物理学賞を受賞したフランスの物理学者アンリ・ベクレルに因んでいます。
同じベクレル数(Bq)の放射能であっても、放射性物質の種類や測定点までの距離、間にある遮蔽物の効果により、放射線の強さは異なります。放射線の強さの単位はグレイ(Gy)が用いられます。また、人体を含む生体に与える影響も加味した放射線の強さの単位にはシーベルト(Sv)が最近使われます。

1シーベルト(1Sv)=1000mSv=1000000μSv

 シーベルトという単位(Sv)は、スウェーデンの物理学者RM Sieveltを記念して付けられた単位です。外国では従来からレム(rem)という単位も使用されています。

1Sv=100rem

 受けた放射線の種類(アルファ線、ガンマ線など)ごとに定められた放射線荷重係数(WR)と放射線に照射された物質が吸収する質量(kg)あたりの放射線量[ Gy= 1ジュール/Kg]を乗じて線量当量(シーベルト;Sv)を算出します。

Sv=WR × Gy

 WRは、X線・ガンマ線・ベータ線ではWR=1、陽子線ではWR=5、アルファ線ではWR=20、中性子線ではWR=5-20の値をとります。
おおよその総被曝量(マイクロシーベルト;μSv)は、[摂取ベクレル総量]×2.2÷100で求められます。例えば妊婦が軽度汚染水道水を妊娠期間中、1年間、毎日(計280日間)1.0 リッター(L)飲むと仮定すると、妊婦がその間に水道水から受ける総被曝量は1.232 ミリシーベルト(mSv)となります(安全基準は後述)。
これらの放射能の計算値はあくまでも総量です。前述したように、放射能物質の種類によって人体に対する影響は異なります。
例えば、レントゲン線(X線)は波長が1pm(ピコメートル)-10nm(ナノメートル)(1m=1/1000mm : 1pm=1/1000nm)程度の電磁波のことで、外部より身体の一部に照射して診断に使用されます。放射線の量は照射する部位によって異なります。線量は増えますがCT検査も同様です。これは外部から照射し一瞬で終わります。しかし、環境にある放射性物質は呼吸や飲み水、食物から体内に入り身体の一部に滞留して放射能を出し続けるので事情が異なってきます。身体の外からのエックス線照射と放射性物質を取り込んだ慢性的な身体の内部からの放射とは比較できません。

放射性物質に絶対的安全値はあるのか

 現在、地球上で人々が大気、大地、宇宙線などの自然界や食べ物、医療行為などから受けている放射線量は年間平均2.4mSvといわれています。これは空気と周囲環境、食べ物(内部被曝)、宇宙からの放射線(放射能)全てを含んでいます。
この値は原子爆弾、原爆テスト、戦争、原発事故、などで少しずつ増え続けています。また、地域によっても異なり、インドのケララ地方、ブラジルのガラパリ地域、イランのラムサル地域、中国の陽江地域などでは他の地域と比較するとかなり高いことが知られています。なかでもイランのラムサル地域では最も高く、世界の平均の55~200倍(年間200mSv)にも達すると報告されています。その源はラジウムとトリウムです。それにも拘らず、その地域の人々の平均寿命は世界平均寿命より長いようです。その理由は明らかでありません。この事実を報告したディサナヤケ氏は「放射線パラドックス」と呼び、この辺の住民がその土地での長い生活史のなかに遺伝子が放射線抵抗性を獲得したのではないかと推論しています(6)。これは特異な事実とみるべきであるかもしれませんが、人類の進化の一端かもしれません。しかし、放射線がラジウムとトリウムという核種であることにも原因があるかもしれません。その機序はまだ解っていません。

最近の文献から

 それでは最近の科学雑誌に報告された放射性物質と癌や他の疾患の発症頻度との関連を見てみましょう。 アメリカのセントルイス原発が稼動したのは1976年ですが、その地方は他の地方に比べ放射能物質ストロンチウム90のレベルが高いのですが、原発設立以後の同地方と他の地方と比較して子供の癌の発生率には有意差はないようです(7)。しかし、これはあくまで、原発が事故を起こしていない場合であり、観察期間が1990~2004年と短期間です。
広島、長崎の原爆被災者に癌の発生率、特に白血病の発生率が高いのはよく知られています。また長期に従事する鉱山労働者や原発労働者に癌の発生率が高いのもよく知られています。
白血病ほど密な関係ではありませんが、放射性物質に曝された総量と膵臓癌、前立腺癌、子宮癌との相関もあることが分かっています(8)。つまり放射線に曝された総量と発癌のリスクはだいたい並行するということになります。
国際放射線防護委員会(ICRP)は1mSvの急性被曝で、将来10,000人に1人のガン発生が考えられるとしていますが、この発表にはいろいろな評価があります。米国環境保護機構(EPA)は「我々が環境から受けている3~6mSv以上の如何なる放射線量も全く安全であると言えない」、としています。原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR,2008)によると、世界平均被曝量は年間2.4mSvです。
これら放射性物質と癌との関連は遺伝子を損傷することによると考えられます。そればかりではなく、心臓血管障害も同様に放射性物質との相関関係があることも分かっています(9)。このことから、遺伝子を介さないルート、すなわち、放射性物質の血管に対するフリーラディカル(あるいは過酸化物質)の生成作用も考えられています。
それでは、ここまでは大丈夫という放射性物質の濃度はあるのでしょうか?
残念ですが、低レベルの放射能の健康への影響については2つの仮説があり、解決を見ていません。

安全値に対する2つの仮説

 第1は「平行閾値なしモデル」(linear no-threshold;LNT モデル)(直線モデル)です。これは、放射線の安全値というものはなく放射線量とともに健康被害は増大するとする仮説です。米国環境保護協会(10)の考えです。その理論的根拠は如何に少量の放射性物質であっても身体の1組織に停滞すれば、その近くの細胞は変異を起こしえるからである主張しています。
米国科学アカデミーの委員会(NAS BEIR VII)もLNTモデルの考えをサポートし、低濃度でもリスクはあり得るが、安全基準値を設けるべきであるとの考えです(11,12)。ブレマー教授はLNTモデルは高濃度と低濃度の放射能から論理的にリスクを求めたものですが、生体には防御機転もあるとしています(13)。米国核放射に関する科学委員会(UNSCEAR)の報告(14)では、多くの研究結果をまとめ、やはり放射能は遺伝子に障害を及ぼすことを確認し、急性被曝は100mグレイ(Gy)(100mシーベルト)以下にすべきとし、妊婦子供では動物実験結果から10~20mGy以下にすべきであるとしています。そして、同報告は、残念ながら現時点では安全閾値を決める科学的証拠はないとしています。もっとも、遺伝子レベルでの修復機構が存在する可能性は否定できません。
第2の考えは、フランスの科学アカデミーと医学アカデミーです。LNTモデルは極低濃度(10mSv)の危険性を外挿法(高濃度から低濃度の実験から極低濃度の影響を理論的に求める)であり、この方法は生物に対する効果を判断するには正確でないとしています。生物はただ一方的に攻撃されるのではなく、放射線によるイオン化や酸化に対してはフリーラディカル・スカベンジャー(抗酸化物質)があり、障害された細胞に対しては除去機構があり(細胞の自殺)、また、生体には細胞同士の情報伝達機構があり、危険が迫ると他の細胞が防御機転を発揮するとしています。同報告はさらに動物実験で極低用量の放射能が返って動物の生存率を高めたという実験や前述した放射能の高い地域の人々が必ずしも癌のリスクは高まっていないという疫学的事実を挙げています。しかし、どの程度の低濃度の放射能までをよしとするかについては、分からないとしています(15)。
このように、米国とフランスの委員会では見解が異なることが分かります。

科学的証拠と安全基準

 最近の報告を見てもやはり安全であるという科学的証拠はないようです(16)。放射性物質の多い環境に住んでいる人々に白血病が多くその被曝量とリスクは平行しています。例えば、子供の白血病にかかるリスクは環境によって5%~20%も増大するといわれます(17,18)。
しかし、現在の地球環境で生きる限り、放射能物質を完全にゼロにすることは出来ません。自然界にも多くの鉱物に放射性物質が含まれています。また、戦争や原爆、原爆実験で多くの放射性物質が地球に撒かれています。また環境によってもその濃度は違います。
しかし、法的にある程度の基準を決めなければなりません。したがって国によって許容基準が決められています。
例えば、我が国の基準では年間の放射線被曝量の安全基準を年間100mSvと規定しています。フランスのIRSNは10mSvを超えたらシェルターで防御、50mSvを超えたらその場所から避難すべきとしています(1)。米国では1950年代までは年間25ミリシーベルト(mSv)(25000マイクロシーベルト)、1957年以降は年間5mSvと変更されています(MITnews,1994年1月5日)。

 我が国の医療行為においては表2に示すように、「医療法施行規則第30条の27(許容線量)」があり、放射線被曝量が規定されています。

表2 医療法施行規則第30条の27(許容線量)
3ヶ月間につき
放射線従事者(全身)の最大許容被曝線量 30mSv(30000μSv)
皮膚のみに対する被曝 80mSv(80000μSv)
手足関節 200mSv(200000μSv)
妊娠可能な女子の腹部 13mSv(13000μSv)
妊娠中の女子の腹部に対して
妊娠と診断された日から
出産までの間に対し
10mSv(10000μSv)
年間(全身)の最大許容被曝線量 50mSv(50000μSv)

 この数値は「安全基準」ではありません。我々として出来ることは、出来るだけ不必要な被曝を避けることに尽きると思います(19)。
医学的に使用する場合は検査や治療によって受ける利益とリスクを考慮して患者さん自身が決めるべきでしょう。その際は、医療提供者側も放射性物質とエックス線の違いや検査や治療の必要性やそのリスクに関する科学的根拠を説明し、患者側も自ら判断することが求められます。

放射線の影響は若いヒトほど影響が出やすい

 放射線は年齢が若いほど感受性が高い(影響が出やすい)ことが知られています。特に、胎児・乳幼児は成人に比べ被曝の影響を受けやすいとされています。
例えば、胎児に悪影響が出るのは、胎児の被曝総量が50mSv以上と考えられています。日本産科婦人科学会では「放射線被曝安全限界」については米国産婦人科学会の推奨に基づいて50mSvとしてきています。放射線防御国際委員会(ICRP)は安全限界を100mSvとしています。一方、胎児の被曝量は、母体の被曝量に比べて少ないとされているので、100~500mSvの被曝を受けても胎児の形態異常は増加しないとの研究報告もあります。
しかし、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNCEAR: United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation)のレポート(14)では10~20mSvでも子供(15歳まで)の白血病や他の癌の発生リスクは40%増加するとしています。
母乳中に分泌される放射性ヨウ素は母体が摂取した量の4分の1程度と推測されていますが、まだ明確ではありません。

予防法

 箇条書きにして、一般的な原則をまとめます。

  1. 被曝は極力避ける、かといってあまり神経質になると却って健康によくない。
  2. そのためには、自分の居る場所の放射能をモニターし(種々の研究機関でモニターしています)、出来るだけ放射性物質を出している場所から離れる。
  3. 被曝の時間を出来るだけ短くする。
  4. 放射性物質を身に付けない、吸入しない、口に入れない。
  5. 放射性物質が身体に付着した場合は速やかに洗い流すこと、特に創がある部分をよく流し洗う。
  6. 出来るだけ正確な情報を得て、自分で計算してみることを薦めます。
    例えば、住んでいる環境の空気の放射能レベルが毎時0.05マイククロシーベルト(μSv)としますと、年間の放射能を取り込む量は、0.05×24×365=438μSv(0.438mSv)となります。この値は国の基準100mSvの1/500以下になります。逆に年間の国の基準を下回るには、毎時114μSv(100mSv/24x365=0.114mSv=114μSv)以下に抑える必要があります。これは、この状態を1年間続けたと仮定した場合です。
    住居が原発に近い場合、ニュースなどでモニターの値が高い時にはできるだけ外出を控え、外出はなるべく短くして、マスクなどで防護するのがよいでしょう。屋内は屋外に比べて、被曝量は1/2~1/3程度です。また、外気の放射線量は空気の流れ、雨、土地に溜まった放射線量によって異なりますので、気象条件なども参考にしてください。

基準値以上の急性被曝時の治療と予防

  1. ヨウ化カリウムを前もって内服するとヨウ素-131などの放射性物質が甲状腺に蓄積するのを防ぎます。日本の基準では100ミリグレイ(約100mSv)以上の被曝としています。
  2. DTPA(ジエチレントリアミン5酢酸)、EDTA(エチレンジアミン4酢酸)、ペニシラミンなどの薬を静脈から投与すると、吸収された後でも放射性元素の一部を除去できます。
  3. 高濃度のビタミンCとマグネシウム剤、重炭酸ナトリウム液を点滴します。
  4. ソーダ水を内服するとウランによる腎障害を最小にします。
  5. 鮫肝油に含まれているアルコキシグリセロールが放射線障害による白血病に効果があることが知られています(20)。さらに、この物質には抗白血病作用だけではなく、種々の抗腫瘍作用があることが解ってきました(21)。
  6. プルシアンブルーはセシウム-137の生体内半減期を約110日から30日程度に短縮させるといわれています(22)ので米国病気の治療と予防センター(CDC)は事故でセシウム-137を大量に摂取した場合にはこれを1カプセル(500mg)頓服するように勧めています。
  7.  以下は、十分なエビデンスはありませんが、試みてよい方法です。

  8. クロレラ、スピルリナがロシアのチェルノブイリ原発事故では使用されています。広島、長崎原爆時、味噌の有効性が記されています。また、疫学調査でも味噌、玄米、海草を食したヒトでは食しないヒトに対し有意に生存率が上がったようです。
  9. 線維類の豊富な穀物が放射能物質の吸着作用があると報告されています。
  10. ブロッコリー、キャベツ、青野菜などは放射能によるラディカルを吸着作用があるとの報告があります。
  11. ポリフェノールなど抗酸化物質を含んだ食物、ハーブ類(イチョウの葉など)、ウコン(ポルフェノールの一種クルクミンなどを含み、カレーのスパイス)などを食する。

高度被曝時の治療(急性放射線症)

 急性に2グレイ(Gy)(人の場合、2シーベルト(Sv))以上の被曝の場合です。
前駆症状として、症状の出ない時期から始まって、局所に受けた場合はまず火傷の治療をおこないます。
2グレイ以上の放射線を浴びると、2~12時間後に食欲不振、無気力、吐き気、嘔吐が現れますので、それらに対する全身的なサポートが必要です。被曝後24~36時間以内にはこうした症状がいったん消失し、その後1週間程度は体の調子が良くなります。この間にも骨髄、脾臓、リンパ節にある造血細胞が障害されいきますので重度の顆粒球(白血球)の欠乏がおこり、血小板や赤血球も減少します。白血球が欠乏すると重度の感染症が起こりやすくなります。また血小板の不足によって出血が止まらなくなります。赤血球の不足(貧血)は疲労、脱力、血色不良を引き起こし、体を動かすと呼吸が苦しくなります。4~5週間後、患者がこの間に死に至らなかった場合には血球の生成が再開されますが、数カ月間は脱力感と疲労感が残ります。 全身に放射線を受けている場合(造血器症候群)には、血球を作る骨髄が障害されているので、顆粒球刺激剤(血球増加剤)などの投与です。また、骨髄移植や造血幹細胞移植が勧められています。またエリスロポイエチンやケラチン細胞成長因子の投与、まだ正常な骨髄部分からの幹細胞や脂肪細胞の移植などが提唱されています(23)。
放射線が消化管の内層の細胞に影響すると胃腸症候群がおこります。4グレイ以上の放射線を浴びてから2~12時間後に重度の吐き気、嘔吐、下痢がみられ、結果として重度の脱水症状が起こります。これらの症状はいったん消失し、その後4~5日間は体の調子も良くなりますが、その間、消化管内層の細胞が死んではがれ落ちていきます。この期間を過ぎると、血の混じった重度の下痢を生じて再び脱水症状を起こします。また消化管から体内に細菌が侵入し、重い感染症を起こします。胃腸症候群の患者は造血器症候群も併発することが多く、出血と感染症により死に至るリスクが高くなります。
放射線の総量が大きくなり20~30グレイ(シーベルト)を超えたとき、脳血管(大脳)症候群が生じます。患者は錯乱、吐き気、嘔吐、血の混じった下痢、ショックを急速に起こします。数時間で血圧は低下し、けいれんが起こり、昏睡状態に陥ります。脳血管症候群は、ほとんどが死亡し治療は困難です。
遅延性の後遺症や放射線療法による副作用には、症状緩和のための種々の治療が行われます。ただれや潰瘍は外科手術、高圧酸素療法で治療します。放射線による白血病は、化学療法で治療します。血球は輸血を行って補充します。卵巣や精巣の機能の異常による性ホルモンの減少に対しては、ホルモン補充療法によって治療します。
現在では、サイトカイン、増殖因子、その他のさまざまな治療法を用いて、放射線による正常な組織の損傷を予防したり、軽減する方法が研究されています。アミフォスチンは、放射線治療を受けた患者の口の乾燥(口腔乾燥症)を緩和することが報告されています。前述したようにプルシアンブルーはセシウム-137の生体内半減期を約110日から30日程度に短縮させるといわれています(22)。

過去の事故から学ぶ

 東海村核燃料加工会社で、ウラン溶液が臨界状態に達し核分裂連鎖反応が発生し667人の被曝者がでました。そのうち重篤な3人の急性放射線症に関する報告があります。患者Aは中性子4.4グレイ、ガンマ線を8.5グレイ、患者Bは中性子を2.9グレイ、ガンマ線を4.5グレイ、患者Cは中性子を0.81グレイ、ガンマ線を1.3グレイという極めて重大な核被曝を受けました。造血機能障害が重篤でしたので造血幹細胞移植や本人の造血細胞移植(患者B、C)が行われました。しかし、不幸にも、患者A、Bは治療の効果なく多臓器不全で亡くなりました。患者Cは幸いこれらの治療に反応し回復しました(24)。
急性の場合も慢性の場合と同様に、受けた線量、局所に受けたか、全身に受けたか、年齢、そのときの患者の全身状態、背景疾患を持っているか否か、なども予後に影響します。
最近は間葉系間質細胞も動物実験で有用であることが示されています(25)。

あとがき:東日本大震災と福島原発事故

 2011年3月11日の地震および津波による多くの甚大なる被災は筆舌に尽しがたいものがあります。これからの日本の将来を決める重大な事故であると筆者は認識しています。まず、地震ですが、その規模のM9.0に関して、国内の報道機関では修正前はM8.8と記され、未曾有の大地震と報道されていました。しかし、海外の研究機関では、最初から8.9~9.1と記されていました。チリ地震はM9.5でした。自然界の歴史に学び、M9.5の津波に備えていればこれだけの被害を被らずにすんでいたのではないかと悔やまれます。
福島原発の事故に関しても、国際原子力機構(IAEA)からは既に2年前(2009)、福島原発に対し危険サインが届けられていたとJapan Times(2011.03.16)は報じています。さらに、2007年、福島県議会で共産党議員から福島原発に対する危険性を指摘されていたことが、報道されています。原発事故に対する東電、原子力安全保安委、政府の対処は種々のメディアを通して視聴者の知るところと思います。
「この悲惨な災害と人災とも言える原発事故からこれまでの日本の秘密主義がいかに重大な損失をもたらすかを政府や日本人が多くのことを学ぶであろう」とMIT News(2011.03.21)は報じています。
筆者はさらに付け加えたいのは、これからも放出され続ける放射性物質を如何に最小限度に抑えるかが、日本のみならず世界中の人々への東京電力、原子力安全保安院およびこれまでこの事業に携わった関連当局、そして日本人の世界の人々にたいする責務だと思います。3月11日午後2時46分地震発生以来、数週間たった現在も、福島原発は予断を許さない状況下にあります。同誌でMIT原子科学教授マイケル・ゴレイ氏は福島原発の技術的問題点をいくつか挙げていますが、専門的になりますので省略します。また、同教授は、「これ以上、原子炉からの放射性物質の漏れに対する進展がなければ、200kmはなれた東京の人々をも遠くへ退避させるべきである。現時点では、かなりぎりぎりのところで進展している」、と述べています。米国エネルギー環境研究所(IEER)は、「3月22日までにスリーマイル島原発事故の放射能漏れの約16万倍の放射能を福島原発は既に環境へ排出した」と述べています(国際ヘラルドトリビューン誌2011.03.30)。『頑張れ日本!』が[迷惑な日本!]とならないように祈るばかりです。
筆者は放射線の専門家ではありませんが、本サイトの使命として時宜にかなったものでなければならないと考え、臨床医学の一般的立場から急いで草稿しました。追って、専門家の校閲を頂き、更新する予定です。

訂正と謝辞

 最近の文献からの項に、国連医科学委員会による世界平均被曝量2.4mSv/年を加えました。セシウムー137の項で、原文では核融合となっていましたが、核分裂の誤りですので訂正します。安全値に対する2つの仮説の項で「平行閾値なしモデル」(linear no-threshold;LNT モデル)は「直線モデル」といっても差し支えないと考え、この呼び名が分かり易いのでカッコの中に入れ併記しました。また直線モデルの低い線量の部分では必ずしも直線ではなく上に凸、下に凸モデルもあるようです(26)。これらのモデルについては、かなり専門的になるので省略します。以上の校正を頂いた京大原子炉実験施設の小出裕章先生に深謝します。東電はやっとフランス、米国など外国企業の協力を受け入れ原発事故処理の工程表を発表しました。工程表の通り処理が進むことを願うばかりです。
この重大な事故を機に、原発に対するこれまでの国の施策、エネルギーの将来、まだ未解決な核燃料に伴う放射能物質の処理について、このかけがえのない地球の人類のみならず生きとし生けるものすべてのため、生命科学の観点からも、幅広く国民的ならびに国際的な論議を交わしていくことが望まれます。(2011.04.27)

あとがき2

 文献検索をしていると次のような文献が見つかりましたので、あとがき2として付加します。
ヨーロッパ放射能リスク委員会(ECRR)は2011年3月30日の時点で次のような提言を行っています(文献附27)。

  1. ECRRのリスクモデルとチェルノブイリ原発事故後のスウェーデンのがんリスクなどを基に計算する。福島原発の100Km以内の300万人については事故後1年間同所に居住したとすると、10年以内に約10万人のがん患者が増加するだろう。50年以内に約20万人のがん患者が増加するだろう。100~200Km以内の700万人については、事故後1年間同所に居住したとすると10年以内に約10万人のがん患者が増加するであろう。50年間に約22万人のがん患者が増えるであろう。
  2. 国際放射能防御機構(ICRP)モデルによると上記条件では100Km以内の居住者では2838人のがん患者が増えることになる。ICRPモデルは内部被曝を考慮していない。内部被曝は外部被曝に対し1000倍にも及ぶ健康障害があるからである。
  3. 文部科学省(‘MEXT’)による公式のガンマー線量測定値は科学的方法によるもので、土地表面の放射能汚染として用いることが出来る。その結果によると、国際原子力委員会(IAEA)のレポートは、MEXTの報告のレベルより低く測定されている。
  4. 先ず、汚染地区の同位元素の測定が緊急課題である。
  5. 福島原発より北西100Km以内の住民は、すべて速やかに移住しこの地域は立ち入り禁止地区にすべきである。
  6. ICRPのモデルは放棄し、ECRRの提言に則り、日本政府は政治的決断をすべきである。
  7. 事実を知りながらデータを隠している人々に対しては捜索を行い、法的断罪をすべきである。 (2011年5月28日)

あとがき3

 福島第一原発事故から既に7ヶ月以上が過ぎました。にも拘らず、放射能汚染の全貌は未だ十分に明らかではありません。この時期になって福島産の米に暫定基準以上の放射能が観察されたなどと報告がなされています。農家にとっては経済的に大変な損失であるばかりでなく精神的ショックです。しかしこのようなことは前もって予測できることです。行政の怠慢です。

この地域すべての除染にはこれから膨大な経費が掛かります。しかし何よりも喫緊な課題はこの地域の住民の健康をどうやって守っていくかです。今一度、ヨーロッパ放射能安全委員会の提言(あとがき2参照)と米国科学アカデミー紀要の提言を尊重し速やかに実行すべきだと筆者は思います。

ついでながら、NHKから毎日のように報道されている各地の放射線レベルがあります。その値は、東京の場合ここ数ヶ月固定したままです。しかし民間の施設で測定されている数値は少しずつ変化しておりますしNHKから発表されている値との間にはかなりの差があります。民間組織や個人のデーターによる数値の1/3~1/2程度です。筆者自身、新宿区、千代田区、文京区、足立区、さらに千葉県松戸市、新潟県新潟市を散歩しながら測定してみました。地上50cm~100cmでの値は0.10~0.17μSvでした。初期のころ比較的高かった足立区と他の地区との差は見られませんでした。このことは核物質がこの7ヶ月の間に拡散していることを物語っていると思います。各地域でこれまで報告されているように、木の下では高く測定されます。一方、大きなビルの間やそのビルの中では比較的低値でした。交通機関では地上の路線内は外気と同程度でした。地下鉄内や地下道では新宿区の私どものマンション室内(0.08~0.10μSv)よりも低く0.07~0.08μSvでした。もっとも、私の検出器で捕らえたこれらの測定値はガンマー線のみの値です。他にアルファー線、ベータ線、中性子線も存在しますので実際の総線量はもっと高くなります。(2011.11.23)

あとがき4

 福島第一原発事故から2013年9月現在、約2年半が過ぎました。しかし、その放射能の放出は続いています。前にも述べたように、その汚染は福島はもとより、日本を超えて全世界に及びつつあります。
その汚染を最小に食い止めることが喫緊の課題です。しかし、残念ながら東電の対策は後手後手にまわり、政府の対策も同様です。
福島原発による太平洋汚染のシムレーションについては各国の科学者の報告がありますが、最近、Behrensら(28)のセシウム-137(半減期約30年)と同程度の半減期をもった色素をを使ったシムレーション解析によると、福島原発事故後5,6年でカルフォルニア沿岸に達し(図4)、10年後は太平洋東部つまり米国西部からカナダの沿岸が最も汚染度が高くなり、事故前に比較して10倍程度の濃度になると推測しています。一方、Povinecらの報告(29)でもカルフォルニア沿岸に達する時間的スピードはこの報告と一致していますが、その濃度は少し低く、3Bq(ベクレル)/m3程度としています。
これらの報告では、一過性に放出されたモデルですので、持続的に放出されていると仮定するともっと深刻な太平洋汚染になります。
海洋生物に対する汚染度を調べた国際チームの報告(30)によると、既に2011年6月の時点で、かなり広い範囲で汚染されているようです。同報告によると、福島原発の近くが最も汚染度が高く、黒潮の流れに沿って30~600キロメータの魚やプランクトンに10~1000倍のセシウム134,137が測定されたとしています。


図4 2011年3月の福島原発事故によって放出されたセシウム137(半減期約30年)の6年後の太平洋における広がりシムレーション(28

*詳しくはこちらのサイトをご覧ください。 [IOPscience;外部サイト(英語)]


2020年にオリンピックが開催されるからではなく、全人類のため日本は叡智を集め、その対策に全力を挙げなければならないと思います。

(2013.9.16更新)

文献

  1. 原子力資料情報室ホームページ
  2. JAIF: Earthquake-report 221,30 September 2011
  3. The Mainichi Daily News ,12 October 2011
  4. Simulation of atmospheric dispersion of the radioactive plume formed by releases from the Fukushima Daiichi nuclear power plant since 12 March. IRSN,March 19,2011.
  5. Yasunari TJ, Stohl A, Hayano RS, Burkhart JF, Eckhardt S, Yasunari T.:Cesium-137 deposition and contamination of Japanese soils due to the Fukushima nuclear accident.Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Nov 14.
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  8. Little MP.:Cancer and non-cancer effects in Japanese atomic bomb survivors. J Radiol Prot. 2009:29:A43-59.
  9. Little MP.:Do non-targeted effects increase or decrease low dose risk in relation to the linear-non-threshold (LNT) model? Mutat Res. 2010;687:17-27
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  11. NAS BEIR VII Phase 2 Executive Summary retrieved 8 October 2008
  12. Brenner DJ, Doll R, Goodhead DT, Hall EJ, Land CE, Little JB, Lubin JH, Preston DL, Preston RJ, Puskin JS, Ron E, Sachs RK, Samet JM, Setlow RB, Zaider M.: Cancer risks attributable to low doses of ionizing radiation: assessing what we really know. Proc Natl Acad Sci U S A. 2003;100:13761-6.
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  27. Busby C:The health outcome of the Fukushima catastrophe
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  28. Behrens E, Schwarzkopf FU, Lubbecke JF, Bohning CW: Model simulations on the long-term dispersal of 137Cs released into the Pacific Ocean off Fukushima Environment Res Lett 7(3),2012
  29. Povinec PP, Gera M, Holý K, Hirose K, Lujaniené G, Nakano M, Plastino W, Sý kora I, Bartok J, Gažá k M. Dispersion of Fukushima radionuclides in the global atmosphere and the ocean. Appl Radiat Isot. 2013; 81:383-92.
  30. Buesseler KO, Jayne SR, Fisher NS, Rypina II, Baumann H, Baumann Z, Breier CF, Douglass EM, George J, Macdonald AM, Miyamoto H, Nishikawa J, Pike SM, Yoshida S:Fukushima-derived radionuclides in the ocean and biota off Japan. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012; 109:5984-8.
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