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摂食障害は肥満恐怖を伴う食行動異常を主症状とした原因不明の慢性・難治性疾患である。この中には神経性食欲不振症(拒食症)および神経性過食症(過食症)の2つが含まれる。
拒食症が注目されるようになったのは、1960年前後からで、過食症は1980年前後からである。社会の産業化が進み、食物が豊富となり、女性は痩せている事が美しいとする文化を背景に多くの若者が罹患した。例えばやせたモデルの方がTVで美しく見えるため、企業はこのようなタレントばかりをPRに使う影響も考えられる。思春期青年期の女子に好発(患者の95%は女性)。摂食障害の患者にはほかにもいろいろな身体合併症や精神科的疾患を合わせて認めるものが少なくない。

[定 義]

摂食障害

神経性食欲不振症

  1. 標準体重=身長(m)2×22
    ボディマス指数(BMI)=  体重(Kg) 
     身長(m)2
    22(19.8~24.2)が病気になる確率が一番低い(疫学調査の結果)
  2. 小食、多食、隠れ食いなどの食行動異常
  3. 体重や体型についてのゆがんだ認識(やせていてもさらにやせたいと主張する)
  4. 発症年齢は30歳以下
  5. 女性では無月経
  6. やせの原因と考えられる器質的疾患や精神疾患がない
  7. 小食のみの制限型と飢餓の反動で過食し、嘔吐や下剤の乱用、ダイエット、激しい運動によりやせを維持する。むちゃ食い/排出型がある。

神経性過食症
  1. 自制不可能な発作的なむちゃ食いを繰り返す。
  2. やせた体重や体型への異常なこだわりがある。
  3. 体重増加を防ぐため自己誘発性嘔吐、下剤や、利尿剤の乱用、ダイエット、激しい運動をする。
  4. 体重は正常範囲(3のために)

神経性食事不振症にも神経性過食症にも属さないものもある。
(特定不能摂食障害-DSM-Ⅳ、非定型神経性食欲不振症、非定型神経性過食症-ICD-10)

[疫 学]

神経性食欲不振症は、女子高校生・大学生の0.4~1%、神経性過食症は若年女性の2~3%と言われている。

[病 因]

摂食障害はストレスを適切に処理する能力(コーピングスキル)が未熟なため発症する心身症の一つである。
やせは自分が精神的に追い詰められている、この窮状に気がついてほしいというメッセージである。過食はアルコールと同様、一時的なストレス発散のためと考えられる。
発症しやすい性格傾向としては、完璧主義、強迫性、融通がきかないなど。まわりの評価に敏感であり、自己評価が低いことが多く、すべてをストレスと受け取ってしまう。親が過保護で患者の自主性発達が妨げられる。家族内に葛藤があることが多い。
女性にとってやせていることが魅力的とされる社会(米国、西ヨーロッパ、日本、オーストラリアなど)で多く見られる。
他のことで挫折を感じている若い女性は、自らの努力で容易に数字として実感できる体重にこだわりダイエットに熱中し、他人の評価を得ることにより万能感にひたり、自分の価値を見出し、悪循環に陥る。

神経性食欲不振症は、同一家族内に複数例発症の報告がある。

【症 状】

●神経性食欲不振症
神経性食欲不振症では、やせの程度に伴い、身体症状(極端なやせ、乾燥皮膚、脱毛、低血圧、徐脈、低体温、乳房萎縮など)食行動異常(小食、偏食、盗み食い、過食、自己嘔吐など)と精神症状(思考力・記憶力の低下など)。
標準体重の84%以下となると月経停止
さらに体重が低下すると、思考や行動が「食」に振り回され、自分では元に戻れなくなる。集中力や判断力は低下し、異常に几帳面となり、情緒不安定となり、退行化し、家族を非難するようになる。
コーピングスキルはさらに低下し、本症はさらに遷延化しやすくなる。
●神経性過食症
神経性過食症では体重が正常範囲であるため、家族に気づかれないことが多い。患者は過食に嫌悪感をもっているが、ストレス発散の手段としている。したがって過食は慢性化しやすく、過食後の抑うつのため、登校できなくなったり、職場を休むようになる。万引きや自傷行為にいたることもある。

肥満恐怖は認めるが、やせ願望はそれほど強くない。病感や病識を認めることがある。身体イメージは神経性過食症では正常と異ならないこともある。
○抑うつ症状
過食後に後悔や自責の念にさいなまれ、強い抑うつとなり、自傷行為。喜怒哀楽や心の葛藤を言語化できない(失感情症)。
○身体症状
正常体重なので、低栄養のための身体的諸症状や検査異常は少ないが、むしろ過栄養による脂肪肝や高脂血症を認める。嘔吐、下剤乱用により電解質異常(低Na、Cl、K血症)、脱水、浮腫をきたす。無月経、一部過剰月経

【病 態】

●神経性食欲不振症
  • 低体重を維持する行動(小食、偏食で低カロリー、ダイエット食品を好んで食べる。食事時間が長く、外食ではメニューがすぐに決められない。その割に活動性は亢進しており、元気に動き回る。長い入浴時間など。)
  • 食への執着と過食(飢餓の反動)として、料理番組や料理雑誌、デパート地下の食品売り場めぐり、有名で高価な食品へのこだわり、料理好き、栄養科進学や調理師を志望する。母親や同胞へ自分の作った料理を食べるよう強制する。むちゃ食い、盗み食い、大量の食品の買い込みなど。
  • その他 不眠、気分の変化(抑うつ、不安・焦燥、易刺激性、怒りなど)思考、集中、判断、洞察力の低下、社会性や人格の変化、認知の偏り、頑固、強迫性の増強、退行性、自己評価低下、問題行動(虚言、万引き、自傷など)。
    これらは飢餓により生ずる症状で、病識は欠如しており、低栄養状態を改善することで軽快し得る。
神経性食欲不振症
低栄養状態により身体症状は
無月経、背部を主としたうぶ毛の増加、便秘、低血圧、徐脈、脱水、末梢循環障害、嘔吐による手指の吐きダコなど。低年齢発症例では、側弯低身長も起こり、歯の脱落を認める。後遺症として骨粗鬆症がある。
内分泌系としては、T3低下、T4・TSH正常、コルチゾール上昇、エストロゲン・テストステロン低値、血液検査で低K血症、低Na血症、低血糖など。
脳神経学的検査ではCT、MRIで脳溝拡大脳室拡大など。
●神経性過食症
自制困難な大量の食事を短時間のうちに衝動的に食べる発作。その後、嘔吐や下剤の乱用、翌日の摂食制限、不食などにより体重増加を防ぐ。体重は神経性食欲不振症ほど減少せず、正常範囲内で変動し、過食後に無気力感、抑うつ感、自己嫌悪を伴う。「食べるときは何も考えないので解放感がある」とストレス発散の効用を認めている。境界性人格障害、アルコールや薬物依存を合併していることがある。

【治 療】

●神経性食欲不振症
長期の経過の中で治癒と再燃を繰り返す。発症後、早期から家庭を含めた総合的治療を施す。患者との信頼関係を維持させることが長期の予後に大きく関係するので、外来治療とするか、入院とするかは慎重に行う。
小・中学生で社会適応性が得られており、家族も治療へ理解を示せば外来治療でよい。
さもないと、入院治療となるが、この場合、家族や友人から一定期間、距離をおくことがよい。これにより、母親の態度や患者の不適切な思考や行動の改善に役立つ。栄養状態と情緒面の改善に重点をおいた総合的治療を進めていく。
●神経性過食症
治療目標は、正常体重範囲内での安定化、身体合併症の治療、治療の動機化、バランスの取れた栄養教育、不適応的思考・行動・情動の正常化、家族の支援などによる再発防止である。
患者との信頼関係を確立し、何回挫折しても必ず治ることを繰り返し説明する。
体重調整のための排出行動(嘔吐、下剤、利尿剤)の有害性を教育し、規則正しい食生活の確立、などの心理教育を行う。
過食と嘔吐や下剤乱用などの排出行動のパターンを知り、これらを減少させるようにし、正常な食生活を確立する。
心理社会的治療としては、認知行動療法と対人関係療法が有効である。人格障害を認める場合は、長期に亘る精神療法が必要となる。家族療法も同時に行う。
○薬物療法
セロトニンの選択的な再取り込み阻害作用を有するSSRIであるフルボキサミン(デプロメール®)がうつ病と強迫性障害に有効であることが報告されている。また、プロキセチン(パキシル®)はうつ病、うつ状態とパニック状態に有効である。
これらの薬物により、過食や嘔吐を減少させ、過食と嘔吐→抑うつ状態→過食と嘔吐、の悪循環を中断することにより、他の治療法が容易となり、その効果を高めることが期待できる。

【予後・経過】

神経性食欲不振症は、51%が良好、21%中等度、26%が不良との報告がある。不良の中には、肺炎などの感染症、脱水と電解質異常による合併症、自殺などが含まれる。
追跡調査によると、2年までの完全回復は0%、5年後までに完全回復は37%、部分回復70%、11年後の完全回復77%、部分回復が87%であった。
神経性過食症の予後についての研究は十分進んでいないが、慢性化しやすい。死亡率は約0.3%で、5~10年の追跡期間で50%が回復、30%が再発、20%がなお治療中との報告がある。

《文献》
石川 敏男、鈴木 健二、鈴木 裕也、中井義勝、西園 文:摂食障害の診断と治療 ガイドライン2005、マイライフ社

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