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脳出血/くも膜下出血

脳出血は微小血管が破綻し、脳の中に出血するものです。くも膜下出血とは出血する部分が原則は異なります。高血圧の治療の普及や、食生活の改善などで脳卒中死亡に対する脳出血死亡の割合は1960年代の70%台から1990年代には20%台にまで急激に低下しましたが、1990年代以降は横ばい(または微増)となっており、依然として本邦では欧米より高い発生率です。全体として脳出血の死亡率は低下してきていますが、年間に約3万3千人の人が亡くなっています(日本生活習慣病予防協会より)。
つまり毎日90人が脳出血によって亡くなっている状況です。

脳出血では出血の部位によって麻痺、失語、意識障害などの多様な症状を示します。ふらつき、視野障害という症状でも発症することがあります。

脳出血の原因は?

1. 高血圧

血圧の値が高ければ高いほど、脳出血の発症率や死亡率が高くなることがわかっています。脳出血の患者さんの76%は高血圧を有しており、最大の危険因子です。
また、収縮期血圧10mmHg低下で脳卒中発症の相対リスクを41%低下されます。

2. 肥満

日本人では脳内出血の発症率はBMI値が高いほど増加します。

1日のお酒の適量

3. お酒の飲み過ぎ

1日のアルコール摂取量が60ml(日本酒2合、ビール大瓶2本)を超えると、飲酒をしない人に比べて脳出血やくも膜下出血のリスクが高くなります。

4. たばこ

喫煙者はリスクが増加し、男性では脳出血になりやすくなります。また、10年以上の禁煙を継続することで脳卒中発症を抑制します。

5. 血液をサラサラにする薬(抗血栓薬=抗血小板薬+抗凝固薬)

血液を固まり難くする薬(ワルファリン)は、脳出血のリスクを2倍にするとの報告があります。
抗血栓薬内服患者が増えてきていることも近年の脳出血患者の特徴であり、加藤らの報告によると1999〜2004年では脳出血患者における抗血栓薬内服患者の割合が11.6%でしたが、2009〜2012年では22.3%と上昇しています。脳、心臓領域でのカテーテル治療後や、CHADS2scoreによる積極的な抗凝固薬投与患者の増加、ワルファリンに比べ安全で、管理が容易な非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(NOAC)の普及の影響もあり、抗血栓薬内服患者はさらに増えると考えられます。

脳出血の診断は?

脳出血は頭部CTにて判別可能ですので速やかな検査が必要です。

脳出血の治療(予防)は?

【脳卒中ガイドラインによる推奨】

グレードA:強く勧める
グレードB:やった方が良い
グレードC:やっても良い
グレードD:やってはいけない

  1. 高血圧症に対して降圧療法を強く勧めます(グレードA)
  2. 大量飲酒者への節酒うおよび喫煙者への禁煙継続を勧めます(グレードB)。
  3. 抗血小板薬単剤または2剤併用療法中の高血圧の方は、収縮器血圧130mmHg以下を目指す厳格な降圧療法が必要です。
  4. 心房細動における塞栓症予防のための抗凝固療法は、ワルファリンと比較して非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(NOAC)の方が、脳出血の発症率が有意に減少します。

脳出血が起こってしまったら?

1. 血圧を下げる(再出血を予防)

脳出血急性期の血圧は、できるだけ早期に収縮器血圧140mmHg未満に降下させ、7日間維持し、止血剤投与を考慮してもよいとされています(グレードC1)

2. 脳のむくみを抑える
頭を前から見た図

頭を前から見た図

頭蓋内圧亢進に対し、高張グリセロール静脈内投与や、ベッドアップにより上半身を30度挙上するとよいと報告されています(グレードC1)
脳出血急性期の患者で麻痺を伴う場合、間欠的空気圧迫法により深部静脈血栓症および肺塞栓症を予防することが勧められるが(グレードB)、弾性ストッキング単独の深部静脈血栓予防効果がないため行わない(グレードD)

3. 重症であれば血腫を取り除く(開頭手術、神経内視鏡手術)

1) 脳出血の部位に関係なく、血腫量10mL未満の小さな出血で、症状が軽度な症例、逆に、意識が深昏睡(最重症)の症例に対しては手術を勧めてはいません(グレードD)

2) 被殻出血:
血腫量が31mL以上でかつ血腫による圧迫所見が高度な被殻出血では手術を考慮します(グレードC1)。特に定位的、内視鏡的脳内血腫除去術(グレードB)や、開頭血腫除去術を考慮します(グレードC1)

3) 視床出血:
場所が悪く、勧めていません(グレードC2)。血腫の脳室内穿破を伴う場合、脳室拡大の強いものには脳室ドレナージ術を考慮します(グレードC1)

4) 皮質下出血:
脳表からの深さが1cm以下のものでは、手術を考慮します(グレードC1)

5) 小脳出血:
最大径が3cm以上で症状が増悪している場合、または小脳出血が脳幹を圧迫し、脳室閉塞による水頭症を来たしている場合には、手術を考慮します(グレードC1)

6) 脳幹出血:
場所が悪く、勧められません(グレードC2)

7) 成人の脳室内出血:
脳血管の異常による出血の可能性が高く、血管撮影などで出血源を検索します(グレードC1)

再発予防

1. 血圧のコントロール不良例で再発が多い

再発予防のためにl血圧を140/90mmHg未満に、可能であれば130/80mmHg未満にコントロールするよう勧めます(グレードB)。特にMRIで認められるmicrobleeds合併例ではより厳格な血圧コントロールを行うことを考慮します(グレードC1)
脳出血後の合併症として、遅発性(発症2週間以降)に痙攣が起こった場合は、高率に痙攣の再発を生じるため、抗てんかん薬の投与が必要になります(グレードC1)

高血圧以外の原因による脳出血の治療

1. 脳動静脈奇形

100万人に12.4人の発症でその58%が出血で発症しています。一度出血した脳動静脈奇形は再出血が多いので外科的治療を考慮します。頭部CTだけでは病変の診断がつかないこともあり脳血管撮影を行います。
特に深部局在、深部静脈への流出、脳動脈瘤の合併例では再発の危険性が高いため、治療を考慮します(グレードC1)

Spetzler-Martin分類(表)のグレードによって手術適応が変わります
特徴 点数
大きさ 小(<3cm) 1
中(3〜6cm) 2
大(>6cm) 3
周囲脳の機能的重要性 重要でない(non-eloquent) 0
重要である(eloquent) 1
導出静脈の型 表在性のみ 0
深在性 1

治療としては外科的治療、定位放射線治療、血管内治療(塞栓術)があります。
痙攣を伴った脳動静脈奇形では、てんかん発作を軽減するため外科的手術のみならず、定位放射線治療を含めた積極的治療を考慮してもよいとされています(グレードC1)

2. 硬膜動静脈瘻

1) 無症候性で、脳血管撮影にて脳皮質静脈への逆流を認めない硬膜動静脈瘻では経過観察をし、MRIによる経時的検査を行うことを考慮します(グレードC1)

2) 症候がある場合、もしくは脳血管撮影にて脳皮質静脈への逆流を認める症例では、部位や血行動態に応じて血管内治療、外科的治療、定位放射線治療の単独もしくは組み合わせによる積極的治療を考慮します(グレードC1)

3. 海綿状血管腫

1) 症候がない場合は、保存的治療を考慮します(グレードC1)

2) 症状がある場合(出血、コントロール不良な痙攣、進行性の神経症状)のうち、病変が脳幹を含む脳表付近に存在する症例では外科的切除を考慮します(グレードC1)

4. 抗血栓療法に伴う脳出血

1) 抗血栓療法中に合併した脳出血では、原則として抗血栓薬を中止します。ワルファリン内服中の場合は、血液製剤やビタミンKを用いて可能な限り速やかにPT-INRを1.35以下に正常化することが勧められます(グレードB)

2) 血栓溶解療法に合併した脳出血に対しては、血栓溶解薬や抗血栓薬を速やかに中止し、フィブリノーゲンなどの凝固因子の低下やPT-INR、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長に対して血液製剤やプロタミンなどを用いてこれらを正常化することを考慮します(グレードC1)
外科的な血腫除去については、出血傾向の補正後に、機能転帰を考慮して慎重に適応を検討します(グレードC1)

5. 慢性腎疾患(CKD)患者における脳出血

1) 脳出血を発症した腎不全患者に対する透析方法は、血液透析よりも腹膜透析または持続的血液濾過が望ましい(グレードC1)

2) 血液透析中の腎不全患者に起こった脳出血では、中等量までの血腫量では保存的治療を考慮します(グレードC1)

6. 妊娠分娩に伴う脳出血

1) 妊娠に関連した脳卒中のうち72.4%が脳出血であり、致死率が高いです。妊娠中よりも分娩時、産褥期でその傾向が高いと報告されており、危険度としては妊娠中が2.5倍に対して、産褥期は28.3倍でした。

2) 原因は脳動静脈奇形、脳動脈瘤破裂、出血性もやもや病の順に多いです。そのため、出血の原因精査のため脳血管系の精査を行い、適切な治療を開始すべきです(グレードC1)

脳出血は何よりも高血圧治療による予防が大切です。特に若年者では血管病変による脳出血も多く、専門施設での治療が必要な疾患です。

(2017.7.16)

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