特定非営利活動法人 標準医療情報センター


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脳卒中の死亡率

脳血管疾患受療率の内訳

 食生活や生活環境の変化により、1960年代から増加していた脳梗塞はその後の治療の進歩、病態の理解、合併症の管理により、近年はやや減少傾向にあります。厚生労働省発表の「平成26年 患者調査の概況」によると、脳血管疾患の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は117万9,000人(男性59万2,000人、女性58万7,ß000人)で、3年前の調査よりも約6万人減少しました。
 しかし脳疾患の中で外来患者、入院患者ともに一番多く、1,000人に1人は脳卒中で入院している状態です。また、介護が必要、寝たきりになる原因の第1位であり、約2割が脳梗塞などの脳卒中です。
 脳卒中による年間死亡者数13万人のうち、約6割が脳梗塞であり、死亡数は66,000人にも及び、死亡原因の第4位です。現在も4人に1人の割合で亡くなっています
 脳卒中の治療を受ける患者数と医療の質を向上させるには、発症早期の脳卒中患者が適切な医療施設へ迅速に受診することが必要です。
 そのためにまず、市民が脳卒中の症状や緊急受診の必要性をよく知る必要があります。啓発の手段として各種の公開講座やテレビなどの報道媒体を通じての市民教育、学校教育としてのACT FAST(『顔(Face)・腕(Arm)・言葉(Speech)・時間(Time)』ですぐ受診)キャンペーンなどを今後も継続していくことが大事です。
 専門医が不在の地域では、急性脳卒中が疑われる患者での頭部CTやMRIの迅速診断のために遠隔画像診断が役立ちます。

キャンペーン

 脳梗塞は大きく3つに分けられます。

  1. ラクナ梗塞:穿通枝梗塞で小さな梗塞です
  2. アテローム血栓性脳梗塞:動脈硬化が原因のラクナ梗塞より大きな梗塞です
  3. 心源性塞栓症:心臓から血栓が飛び、大きな梗塞を引き起こしやすい
脳梗塞の種類
シンシナティ病院前脳卒中スケール

 症状はどの部分が脳梗塞になったかによって千差万別です。但し、脳梗塞に起こりやすい症状として顔のゆがみ(顔面神経麻痺)、片麻痺(左右どちらかの手足の動きにくさ)、ろれつが回らない(構音障害)が頻度として高いです。救急隊員も利用しているシンシナティ病院前脳卒中スケール等が参考になります。


【脳卒中ガイドラインによる推奨】

グレードA:強く勧める
グレードB:やった方が良い

○ 脳梗塞急性期

まず詰まった血管を再開通させる治療をします

脳梗塞を発症したら一刻も早くt-PAの治療ができる病院にたどり着くことが回復の決め手になります。病院到着後は頭部CT、MRI、場合によっては全身CT(大動脈解離の否定のため)を施行し、正確な診断をまずつけることが大事です。同時に再開通療法のできる環境をつくります。

シンシナティ病院前脳卒中スケール
1)発症から4.5時間以内
血栓溶解療法(経静脈内投与)(グレードA)
発症から4.5時間以内で梗塞所見がまだ出ていない場合に組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)を静脈注射し血栓を溶かします。
副作用は脳出血(J-ACT 5.8%)の危険があり、治療決定のための除外基準、慎重投与項目が適正治療指針第2版に従って適切に使うことが必要です。但し、4.5時間以内であっても、治療開始が早いほど良好な転帰が期待できます。
本療法の実施率は全脳梗塞の5%前後と依然低い水準が続き、また深刻な地域格差が存在することが指摘されています。
適応外
2)発症から8時間以内
血管内治療(血栓回収術)(グレードA)
2014年12月から2015年5月にかけて相次いで発表された5つのランダム化比較試験(RCT)は、いずれも前方循環系主幹動脈閉塞症例による急性期脳梗塞に対して、rt-PA静注療法に加えて血管内治療を行うことが、rt-PA静注療法単独治療の場合よりも良好な転帰をたどることを証明されました。一番最初に血管内治療の有効性が示されたMulticenter Randomized Clinical Trial of Endovasucular Treatment for Acute Ischemic Stroke in the Netherlands(MR CLEAN)では、90日後mRSO-2(転帰良好:歩けるようになった)野割合がtPA単独群(19.1%)より血管内治療群(32.6%)で優位に高いことがわかりました。
3)発症から48時間以内
抗凝固療法(グレードB)
発症48時間以内で最大径1.5cmを超す比較的大きな脳梗塞には、アルガトロバン投与が推奨されます。特に脳血栓症に有効です。
脳保護療法(グレードB)
発症24時間以内に投与を開始し、脳保護作用が期待されるエダラボンは脳梗塞(血栓症、塞栓症)患者の治療法として勧められます。但し、腎臓が悪い人は使えません。
開頭外減圧療法(グレードA)
中大脳動脈灌流域を含む一側大脳半球梗塞において、①年齢が18〜60歳までの若年症例、②NIHSS scoreが15点より高い症例、③NIHSS scoreの1aが1以上の症例、④CTにて梗塞域が中大脳動脈灌流域の50%以上あるか、拡散強調MRI画像(DWI)で梗塞範囲が145cm³を超える症例、⑤症状発現後48時間以内の症例であれば、硬膜形成を伴う外減圧術を強く勧めます。
抗血小板療法(グレードA)
アスピリン160-300mgの経口投与は発症48時間以内の脳梗塞の治療法として勧められています。
4)発症から5日以内
抗血小板療法(グレードB)
オザクレルナトリウム(薬品名カタクロット、キサンボン)は発症5日以内の脳血栓症の症状を改善させます。
4)発症から2週間以内
抗血小板薬2剤併用
抗血小板薬2剤併用(例えばバイアスピリン+クロピドグレル)は発症早期の心源性塞栓症以外の脳梗塞、一過性脳虚血(TIA)の2週間までの治療法として勧められます。

○ 一過性脳虚血(TIA : Transient Ischemic Attack)

脳に行く血液の流れが一過性に悪くなり、運動麻痺、感覚障害などの症状が現れ、24時間以内、多くは数分以内にその症状が完全に消失するものをいいます。脳梗塞の前触れとして重要です。症状がすぐに消えることで、大したことないと判断し、病院に行かない人もいます。しかしTIA発症後90日以内に脳梗塞を起こす可能性は15ないし20%あり、そのうち48時間以内に半数の人が発症します。

一方、TIAを疑った時点で速やかに治療を開始した場合、90日以内の大きな脳卒中発症率が2.1%まで低下します。

ガイドラインでは以下のように記載されています

  1. TIAを疑えば可及的速やかに発症機序を確定し、脳梗塞発症予防のための治療を直ちに開始するよう強く勧められます。脳梗塞の再発予防に準じて行います(グレードA)
  2. TIA後の脳梗塞発症の危険度予測と治療方針の決定には、ABCD2スコアをはじめとした予測スコアの仕様が勧められます(グレードB)。特に発症48時間以内でABCD2スコア4点以上、繰り返すTIA、MRI拡散強調画像病変、心房細動合併症例、頚動脈及び頭蓋内動脈の50%以上の狭窄病変合併症例では注意が必要です(グレードB) 。
    ABCD2スコア
  3. TIAの急性期(発症48時間以内)の再発防止には、アスピリン160〜300mg/日の投与が強く勧められます。(グレードA)。急性期に限定した抗血小板薬2剤併用療法(アスピリン+クロピドグレル)も勧められます(グレードB)。
  4. 心源性TIAの再発予防には、第一選択薬はNOACまたはワルファリンによる抗凝固療法が推奨されます。
  5. 狭窄率70%以上の頚動脈病変によるTIAに対しては、頚動脈内膜剥離術(CEA)またはCEA困難症例では、経皮的血管形成術と頚動脈ステント留置術(CAS)が推奨されます。

○ 脳梗塞慢性期

脳梗塞の急性期医療が過ぎるとリハビリテーションと再発予防が主な目的になります。

危険因子の管理と再発予防

予防として、特に高血圧、高脂血症、肥満、大量飲酒の改善、心房細動の治療をすることを推奨しています。

  1. 脳梗塞の再発予防では、高圧療法が推奨されます。目標とする血圧は少なくとも140/90mmHg未満とするよう強く勧められます(グレードA)。
  2. 高用量のスタチン系薬剤は脳梗塞の再発予防に勧められます(グレードB)。低容量のスタチン家薬剤で脂質異常症を治療中の患者において、エイコサペンタエン酸(EPA)製剤の併用が脳卒中再発予防に勧められます(グレードB)。
  3. ラクナ梗塞の再発予防にも抗血小板薬の使用が勧められます(グレードB)。ただし十分な血圧のコントロールを行う必要があります。
  4. 非心原性脳梗塞の再発予防には抗血小板薬の投与が推奨されます(グレードA)。現段階で非心原性脳梗塞の再発予防上、最も有効な抗血小板療法はシロスタゾール(プレタール®)200mg/日、クロピドグレル(プラビックス®)75mg/日、アスピリン(バイアスピリン®)75〜150mg/日(グレードA)、チクロピジン200mg/日(グレードB)です。
  5. 心原性脳塞栓の予防は抗血小板薬ではなく、抗凝固薬が第一選択です。非弁膜症性心房細動(NVAF)をもつ脳梗塞、または一過性脳虚血発作(TIA)患者の再発予防に非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(Non-vitamin K antagonist oral anticoagulant :NOAC)であるダビガトラン(プラザキサ®)、リバーロキサバン(イグザレルト®)、アピキサバン(エリキュース®)エドキサバン(リクシアナ®)、またはワルファリンによる抗凝固療法を行うよう勧められます(グレードB)。NOACはワルファリンと比較して、頭蓋内出血を含め重篤な出血合併症は少ないので、NVAD例の二次予防にはNOACによる抗凝固療法をまず行うよう勧められます(グレードB)。腎機能、年齢、体重を考慮し、各薬剤の選択と用量調節を行います(グレードB)。
  6. NVAFをもつ脳梗塞またはTIA患者に対する再発予防のワルファリンによる抗凝固療法は、international normalized ratio(INR)2.0〜3.0の範囲でコントロールすることが強く勧められますが(グレードA)、70歳以上の患者でのワルファリンによる抗凝固療法は、出血性合併症を防ぐため、やや低強度(INR1.6〜2.6)が勧められています(グレードB)。
    心疾患(リウマチ性心臓病、拡張型心筋症など)の器質的心疾患を有する症例にはワルファリンが第一選択薬であり、INR2.0〜3.0に維持するよう強く勧められます(グレードA)。
  7. 脳卒中後認知症の予防に血管リスク管理を含めた二次予防が強く勧められます(グレードA)。中核症状の治療には、ドネベジル(アリセプト®:グレードA)、ガランタミン(レミニール®:グレードA)、およびメマンチン(メマリー®:グレードA)の積極的な投与が勧められます。(ただし、いずれも保険適用外)。
    脳梗塞後の意欲低下に対してはニセルゴリン(サアミオン®)の投与が勧められます(グレードB)。
  8. 脳卒中後うつ状態に対しては抗うつ剤の投与が推奨されます。早期に三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬を開始することが勧められます(グレードB)。
  9. 症候性頚動脈狭窄が70%以上の人は頚動脈内膜剥離術が勧められます。無症候性の場合と同じで軽い脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)を起こしていて頚動脈が狭窄している人には手術で動脈硬化を取り除くと(頚動脈内膜剥離術)再発が防げます。
    内頚動脈頚狭窄症において、頚動脈内膜剥離術(CEA)の危険因子をもつ症例に対しては、頚動脈ステント留置術(CAS)を行うことが勧められています。
  10. EC-ICバイパス手術
    脳梗塞、TIA再発予防の面から、症候性内頚動脈および中大脳動脈閉塞、狭窄症を対象とし、熟練した術者により施行される場合、脳の血流検査をして脳循環予備能が低下していることが証明された症例に限り、EC-ICバイパス術を考慮してよいとされています。EC-ICバイパス術は一次効果がないとされましたが、条件にあった症例に対し熟練した術者が実施する場合は効果があることが日本で証明されました(JET study)。

脳梗塞は正確、迅速な診断と治療が重要な疾患であり、また生活習慣の改善と病型に応じた二次予防が再発予防に必須です。

(2017.7.16)

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